レミング(ネズミを愛らしくした感じの小動物)の集団自殺という現象。そこそこ有名かもしれないが、簡単に言うと、まさにその言葉通りの意味で、個体が増えすぎたレミング達が、ある日あるとき突然ピキューンときて、大集団で崖まで暴走し、あろうことか次々と身投げをする、という不可思議な集団自殺現象のことである。
なかには、ドキュメンタリー映画で、海に威勢良く跳び込んでは、ぷかぷか浮かぶ哀れな20〜30匹のレミングの、そのあまりに悲惨で痛ましい光景を覚えている方もおられよう。
さて、この集団自殺は、生物学者の興味すら引いてきた異常現象だったわけだが、ご存知の方はご存知のように、ずばり話そのものがウソである。
私もこの件、レミングを大虐殺して撮ったヤラセ映画の映像だけが証拠の、破廉恥な捏造神話であるということは耳にしていたが、詳細は知らないし、そもそも、肝心の映像を見たことがなかったのである。しかし、本項の執筆にあたり、だめもとでYoutubeを探してみたところ、なんと!当時の映像が見つかったのだ。
それも1958年の、実に半世紀前の映像が!
※しかも苦労して放映内容の情報をかき集め、一生懸命訳しながらまとめ、いざHPにUPするぜ!という段になってから「あ、映像あるかも」と思って探した結果、見つけたのである(>_<) その苦労の上で発見した映像が以下の映像である。
これがその問題の映像
White
Wilderness (邦題:『白い荒野』として日本でも放送された。)
よくぞUPしてくれたものだと感謝感激である。
さて、この件についていろいろ調べてみたわけであるが、やはりウソなのだが、想定していたよりもはるかに嫌な気分にさせてくれるクズっぷりであった。
まず、何がひどいかっていうと撮影方法!もう泣けてくる(つД`)゜・, ママーン
たしかに、、、ウィリアム・パウンドストーンが「ディズニーのスタッフは、嫌がるレミングを掴んでは海に放り投げ、後ろから突付いては突き落としていった」という風な感じで表現していた(と、記憶している)が、なんと、これがあながち誇張ではないようで、正直なところ驚いた。
なんというディズニー! 1958年とはいえやりすぎだ。
では、まず放送内容にふれながらの解説があるので、それを見ていこう。
1958年のディズニーによる記録映像の真相 Lemming Suicide Myth Disney Film Faked Bogus Behavior から該当箇所を翻訳引用する。
※高校時代に英語のテストで9点/100点満点を取ったほどアンチ英語脳な私の訳であるからして、正確ではなく、意訳もある・・・が、いちおう概ね原文に近いと信じる。英語達者な者は原文を読まれたい。
【原文】
「In 1958 Walt Disney produced "White Wilderness," part of the studio's "True Life Adventure" series. "White Wilderness" featured a segment on lemmings, detailing their strange compulsion to commit mass suicide.
According to a 1983 investigation by Canadian Broadcasting Corporation producer Brian Vallee, the lemming scenes were faked. The lemmings supposedly committing mass suicide by leaping into the ocean were actually thrown off a cliff by the Disney filmmakers. The epic "lemming migration" was staged using careful editing, tight camera angles and a few dozen lemmings running on snow covered lazy-Susan style turntable.
"White Wilderness" was filmed in Alberta, Canada, a landlocked province, and not on location in lemmings' natural habitat. There are about 20 lemming species found in the circumpolar north - but evidently not in that area of Alberta. So the Disney people bought lemmings from Inuit children a couple provinces away in Manitoba and staged the whole sequence.
In the lemming segment, the little rodents assemble for a mass migration, scamper across the tundra and ford a tiny stream as narrator Winston Hibbler explains that, "A kind of compulsion seizes each tiny rodent and, carried along by an unreasoning hysteria, each falls into step for a march that will take them to a strange destiny."
That destiny is to jump into the ocean. As they approach the "sea," (actually a river -more tight cropping) Hibbler continues, "They've become victims of an obsession -- a one-track thought: Move on! Move on!"
The "pack of lemmings" reaches the final precipice. "This is the last chance to turn back," Hibbler states. "Yet over they go, casting themselves out bodily into space."
Lemmings are seen flying into the water. The final shot shows the sea awash with dying lemmings.」 【日本語訳】
「1958年ウォルト・ディズニーがプロデュースした、ディズニースタジオ『True Life Adventure』シリーズの一つ『White Wilderness』(訳注:邦題『白い荒野』)において、レミングの項目では、彼等の奇妙な自発的な集団自殺を特徴としました。
CBCのプロデューサー、ブライアン・ヴァレーによる1983年の調査によれば、レミングの場面はヤラセでした。海に跳びこんで集団自殺を行っているレミングは、おそらくディズニーのスタッフによって、崖から投げ出されていました。壮大なレミングの移動は、雪に覆われたレイジースーザンターンテーブル(※訳注:回転テーブル)の上で、慎重な編集、カメラアングルと2〜3ダースのレミングを使って行われました。
『White Wilderness』は、レミングの自然の生息地でのロケではなく、陸地に囲まれた地域であるアルバータ(カナダ)で撮影されました。周極地域では、およそ20種のレミングが確認されていますが、アルバータ辺りではみつかりっこありません。ディズニーの人たちは州を変え、マニトバ州(カナダ)でイヌイットの子供たちからレミングを買取り、撮影したのです。
番組中、レミングの箇所では、小さい齧歯動物達が、大移動のために集まり、ツンドラの向こう側に疾走し、小さな川を渡っていきます。
その様子をナレーターのウィンストン・ヒブラーが解説します。
「この小さな齧歯動物たちは、無分別なヒステリー状態になり、まるで強制されたかのように奇妙な運命の行進に加わっていきます。」
その奇妙な運命とは、海へ飛び込むことです。彼らが「海」(実際には川?actually a river -more tight cropping)に接近したところで、ヒブラーは続けます…
「彼らは、強迫観念、直情的な思考、その犠牲者になります。進むんだ!進むんだ!ヤイサホー」
レミングの群れは、いよいよ断崖に着きます。
「これが、引き返す最後のチャンスです」と述べ「それでも、彼らはさらに直進し、自ら体を中空に投げ出していきます」そしてレミング達が水に飛び込むシーンを見られます。
最終的なショットは、瀕死のレミングであふれている海でした。」 訳:ワカシム
と、こういう「ドキュメンタリー映画」なのである。基本は継ぎはぎの編集と、カメラワーク、そして虐殺、挙句にカナダで撮影というスゴさである。 ちなみに、上記サイト以外では「Lemmings, dying on camera」などでも説明がある。 概ね、真相が上記の通りであろうことは、当時の映像を注意してみると、大変に納得がいく。
青い海だったはずなのに、飛び込むのは茶色い水だったり、よく見ると崖の上から自発的に跳ぶ直前の動作は全く映っていなかったり、横からの全体像ならインパクト抜群であろうはずのシーンにもかかわらず、がけ下からのアングルと、崖っぷちぎりぎりから見下ろしたアングルの二つのみで、その後ろ(スタッフが放り投げたり、突ついたりしているであろう部分)が映っていないことや、不自然なアップとか、大行進といいつつ、まったく大行進ではないとか、突っ込みどころ満載である。
以上から、CBCのプロデューサーであるブライアン・ヴァレー氏の調査が、1958年、ディズニースタジオによる『True Life Adventure』シリーズの一つ『White Wilderness』(訳注:邦題『白い荒野』)の真相と考えて間違いないだろう。
レミングの集団自殺神話の謎
さて、問題の映像の真相が判明したため、この神話も決着か、というとそれまた違うのである。この件に関してWEB上を探すと、ディズニーが初出であるかのうように記載しているサイト(例)などがちょろちょろとあるが、この話はディズニーが創作したネタではない。 既に先行する逸話があったことを示す具体的な情報があるので引用する。
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「この映画(※引注『White Wilderness』のこと)が公開される以前にも、ジェイムズ・サーバーの短編『Interview with a Lemming』(1942年)や、アーサー・C・クラークの短編『憑かれたもの』(1953年)、リチャード・マシスンの短編『Lemmings』(1957年)といった小説で、レミングの集団自殺が題材として扱われていることがわかった。
」 |
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『超常現象の謎解き』アトランティスの項目の脚注3より |
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このようなわけで、この話の起源はディズニーの捏造よりも前にあるようだ。
つまりディズニーの捏造をすっぱ抜いただけでは、まだ集団自殺現象そのものが偽の現象なのだ、とは結論できないわけである。ここで結論してしまうのは、既にインチキだと目されていた外科医の写真の告白報道を理由に、ネッシーが否定された、などと結論する連中と同じダメっぷりになる。(懐疑論者は、結論が同じでも、結論までの過程に致命的な誤謬があれば受け入れない。事実に対して誠実であるとはそういうことだ。)
そこでレミングの集団自殺神話そのものの真偽について踏み込もう。 The lemming cycle Mystery まず、1924年Charles Elton※が報告して以来、生態学者にとっても、レミングとハタネズミにみられる4年周期の奇妙な激増、激減は、この齧歯動物達だけに特有の謎として認知され、そのメカニズムを説明するために、たくさんの仮説が生まれてきたようだ。(集団自殺の神話も、恐らくそういった仮説の中の一つ、というより憶測として提案されたものかもしれない。私は具体的な初出を発見できなかった。)
そういった具合で、レミングのサイクル問題は、実際に生態学上の大きな謎の一つであったのだが2003年に、フィンランドとドイツの合同チームによる、15年に渡るグリーンランドでの調査に基き『Science』誌に発表した論文によって、この1世紀近いミステリーが解明されたのである。
(フィンランドはヘルシンキ大学のOlivier Gilg と Ilkka Hanski、ドイツからはフライブルク大学のBenoit Sittler) この画期的な論文の内容を踏まえると、まず、レミングの個体数に、激増と激減の不思議なサイクルがあることは、観測された事実である。これは先に述べた通り。
さて、グリーンランドでは、レミングとハタネズミにとっての天敵である捕食者が、シロテン、ホッキョクギツネ、シロフクロウ、シロハラトウゾクカモメと4種ほどいる。特に夏場においては、シロテン以外の三種が、ことのほかレミングをパクパクお召し上がりになるようで、個体数がかなり減る時期でもあるそうな。そのようなわけで、レミング等が大繁殖するのは、地表が厚い雪に覆われた冬場だけである。が、基本的に「ネズミ」なので、こいつらは冬場だけだろうがネズミ算で増えていくわけだ。そういうわけで、雪の季節もレミングを狙うシロテンの個体数・活躍が、冬があけてからのレミングの個体数を決め、つまり他の3種の捕食者のエサの量を決めることになり、それはこの3種の個体数に影響し、夏のレミングの個体数に影響し、という連鎖が存在しており、観察されるサイクルが成立していることが判ったと。(このことを、15年の観察と、納得のよく数学的モデルによって説明でき、鍵を握るのがシロテンであったのだ。)
当然、15年にわたり観測してきたフィンランド・ドイツの合同チームですら、レミングの集団自殺など目撃していないのだ。あげくに、1924年以来のレミングサイクル問題は、集団自殺などによる調整を必要とせず、捕食者と被食者の通常の食物連鎖の関係のみで起きていることが、15年に渡る調査の帰結として実証されたわけである。
以上、レミングの集団自殺は、最初から存在していない現象であり、捏造によって命を吹き込まれてしまった、ということが判った。
友達の友達が飛び込むところを見た、と言い出せば、もはや完全な都市伝説である。
豆知識など
・レミングは一応泳げるのだが、溺れるヤツがいても不思議ではないくらいドン臭い(ように思える) もしかしたら、そういうドン臭くて溺れているレミングの個体をみて「集団自殺」を思いついた人がいたのかもしれない。 ・真面目な進化論の議論において、自然選択が個体ではなく「集団や種に有利な性質が広まる」という集団選択の理論を解説するための具体例(たしかに集団自殺というのは「利他的な行動」の実例としては最終形態だ)として用いられてきたことも、この話の真性を高めることに一役買っていたのかもしれない。
・1991年。『レミングス』というアクションパズルゲームが欧米でめちゃめちゃ大ヒットしてしまい(日本でもそれなりに売れたらしい) 「レミングの集団自殺」や、愛らしいまぬけさが認知されたことも無視できない。
・年々、本件については少しずつ情報が広がってはいたが、2003年の論文発表を期に「DeiscoveryNews」(Olivier
Gilgのインタビューもある)が取り上げたあたりになると、ずいぶんと反響があったようだ。
・そして現在、知っている人は知っているという感じで、都市伝説風の扱いになってきている。
※ Charles Elton(1900〜1991)
現代まで生態学の基本概念に影響を残す生態学史上の巨人の一人。レミングの集団自殺神話については、まったく関与していない立派な科学者である。
「イギリスの動物生態学者、イギリス本国のほか北極圏のスピッツベルゲン・カナダ北部などで詳しい調査を行い、動物個体群の周期変動と動物の群集についての大きな業績をあげた。キリスト教神学では、世界は全能の神が創造した完全に調和の取れたものであるはずである。個々の生物種が完全かつ不変であるとの考えは、チャールズ・ダーウィンによって否定され、個体数の不変はチャールズ・エルトンによって否定された。彼が実地調査で発見したものは、周期的に大発生するタビネズミや、ユキウサギの個体数の周期変動を後追いするように変動する、オオヤマネコの個体数であった。
1927年に出版された‘Animal ecology(動物生態学)’でエルトンは、生物群集が食物連鎖によってつながっていること、食物連鎖を構成する各種類の個体数を図形で表示すると、一般に下位(食われる方)のものほど個体数が多いので、その数を横軸にとって積み重ねると、ピラミッド形の図形にあらわすことができる。食うものは食われるものよりも体が大きいことと合わせて西洋近代科学の範疇ではエルトンが初めて指摘した。」 科学と自然<生態学・環境学
より
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