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幽霊ブランコ
Haunted Swing

情報提供:トントロ(読者)
調査協力:那須野美穂 
気になる資料室」管理人
 

 
 

現象
Phenomenon

 誰もいない公園のブランコが、あたかも人間が漕いでいるかのように動き出す。
それが幽霊ブランコ(Haunted Swing)という現象である。この現象は2007年10月に、アルゼンチンのフィルマットで発生したケースが報道され、有名になったようである。次の動画は、このフィルマットの物件である。

 このように、明らかに日常的な光景ではなく、好奇心旺盛な懐疑論者ならば、いったい何が起きているのか真相が気になる現象であろう。
 対照的に、心霊現象の信奉者は、即座に霊現象として決め付け、怯えるだけで満足してしまうらしい―曰く、とても寂しがっている子供の霊です、、ママー、ママー、どこいったの?

 さて、好奇心の欠如した連中はさておき、通常、この手の現象は、現象の有無そのものが怪しく、説明すべき現象がなかった、激しく誇張されていた、といったことも珍しくない。だが、幸いにも「幽霊ブランコ」は、大量の目撃者に加え、再現性もあり、映像にも撮られているため、それが現実に起きていると判断しても問題なさそうだ。

 まず、そういった状況を説明しているサン紙の報道を紹介しよう。

  2007/10/28 英・サン紙
Ghost haunts kids' playground
 「アルゼンチンのフィルマットにある児童公園で、誰も乗っていないブランコが揺れ動くという不可解な現象が起こり、科学者を困惑させている。児童や親たちは幽霊だと確信。

 問題のブランコは、約4ヶ月前に動き始め、驚いた子供たちが警官に通報した。
 その現象には警察も当惑し、フィルマット在住の物理学教授に連絡を取ったが、今のところ、論理的な説明は得られていない。
 地元民によると、ブランコは完全に停止するまで、10日間動き続けていたという。
 調査にあたった科学者は、磁気や電気、風などが原因となっている可能性は除外した。」

 

 以上、フィルマットの児童公園で起きた幽霊ブランコの概要である。それにしても、物理学者がきたのに解明できていないというのは本当なのだろうか。

所見
Findings

 私は、まっとうな科学教育を受けていない一般人であり、物理学の知識も一般書レベルである。そのため、この現象の動画をみたときの所見は、次のようなものであった。

  1. 原因はさておき現象は確かに起きていそうだ。

  2. ジョーカーが仕込んだ悪ふざけの可能性はある。 

  3. 何か条件を満たしたときに生じる、珍しい物理現象なのではないか。

  4. 最初から意図的な不正を疑う理由はなさそうだ。

 以上のような感想である。

 また、動画を観て、さらに思ったことがある。

 まず、大勢の観衆の前で思い切り起きており、一部始終が映像として残っている。また、報告によれば現地調査が可能なほど安定して発生している。
 皮肉なことに、ほとんどの超常現象は、そういった観察がうまくいかないことで有名である。きっと、フォーティアンの提案する「我々は宇宙のジョーカーにからかわれている」というコズミック・ジョーカー説が真実なのだァーッ。
 まあ、ジョーカーはさておき、逆に、十分な調査や観察が可能であれば、かなり異常な現象でも、それなりに研究し理解することが可能である。(
球電現象やカモノハシというUMA、隕石という珍現象を思い出そう)
 この幽霊ブランコは、あまりにも堂々と発生しているので、そのことが、現実に起きている現象であることを強力に示している。そういうわけで、いろいろ解明が進んでいる可能性があるため、情報を収集することにした。

事例
Case

 昨今はインターネットの進歩によって、かつてとは比べ物にならないほど、いろいろな情報が手に入る。そのようなわけで、まずはサーチエンジンを使って検索してみるのが王道である。
 もちろん、膨大な情報から、より適切な情報をバイアスに絡めとられないよう注意しながら探すといった、ある程度の知識や心構えが必要である。加えるに、新しい知識を得るときには「誤りであれば修正する覚悟」をもつようおすすめする。
 すると、この幽霊ブランコが、アルゼンチンの事例だけでなく、他にも複数存在していることが確認できた。以下、YouTubeで発見した動画のリンクである。ブランコは全て別の場所である。

 このように、複数の事例が存在しており、秘密結社PJSなどの世界的な悪ふざけ屋の仕込みである可能性も除外できないが、アルゼンチンのフィルマット固有の現象でないことがわかる。
 なお、この段階でも現象が仕組まれた可能性を疑う場合は、さらにこの件について裏づけを取るべく調べてもよいだろう。私はとりあえずここまでの見解では、事例そのものの怪しさを疑う理由は見出していないため次へ進んだ。

共鳴・共振
Resonance effect

 さて、ここでひとつ、本件に関連しているかもしれないResonance effect、共鳴(共振)について、紹介しよう。共振といえば、ゴルゴ13で、軍隊の行進が橋の固有振動数と一致してしまい、橋が崩れ落ちる話があったことをご存知の方もおられよう。そう、あれのことである。

 この現象については、ウィキペディアの共鳴に「力学的共鳴」として解説があるので、引用しよう。

  「あらゆる物体には固有振動数(その物体にとって振動し易い振動数)がある。外部から振動が与えられるとき、与えられる振動が固有振動数に近づくにつれ物体の振幅が急激に増大する。この現象を「共鳴」または「共振」という。
 遊具の「ブランコ」の、動きの調子に合わせて力を加えると次第に揺れが大きくなる様子が参考になる」
 

 共鳴(共振)は、物理現象としては有名な部類であり、いろいろ興味深い現象を引き起こすことでも知られている。たとえば、音(空気の振動)を、対象とする系の固有振動数にあわせることで、破壊的な現象を引き起こすことも可能だ。

 具体例としては、ワイングラスの破壊実験などがある。しかし、なんといってもこの現象でもっとも有名なのは、1940年11月におきた、米のタコマにある橋の崩壊であろう。

 この映像は、タコマナローズ橋が共振によって崩れる本物の映像である。不幸にもワンちゃんが1匹犠牲になったそうだが、建造中から風によって生じる共振が、橋を不安定にしていることが確認されていたため、人間の犠牲者はいなかったらしい。同時に、建設中から判明していたため、共振の激しい事例の一部始終を、映像記録として残すことができた。そのおかげで、この現象についての理解が劇的に発展したのである。

 ともあれ、以上、共鳴・共振による効果が、非常に強いということは、お分かりのことと思う。

結末
conclusion

 さて、結論からいうと、幽霊ブランコは共鳴・共振であると考えてよさそうだ。

 共振は、普通のブランコを人間が漕ぐことにもかかわっているが、さらに、次のような構造を持つブランコ状の系では、微小な力が共振によって、大きなゆれに発展することがわかっている。早速、次の動画をみていただきたい。

 これは非常に判りやすい例である。

 しかし、幽霊ブランコがそれだとする根拠はあるだろうか。

 しばしば、現象そのものの有無を問うべき問題にもかかわらず、超常現象領域やジョーカーの馬鹿げた情熱について知識のない職業科学者が「○○で説明できる」というピントのずれた解明を提出してしまうことがある。ミーデン博士の、ミステリーサークルプラズマ説など代表的であろう。
 また、現象は確かに起きていても、「○○で説明できる」という説明が、事実であるのか否かは、例外はあるかもしれないが、基本的に別の問題である。むろん、その説明が正解の場合もあるし、そうでない場合もあるからだ。
 懐疑論者ならば、そういった穴に注意するくらいには、クリティカルシンキングと、健全な懐疑精神を身につけておきたい。

 私は、幽霊ブランコについては、現時点で現象の有無までは懐疑的になる理由はないと判断したので、次の問題として、「共振で説明できる」ではなく、幽霊ブランコが共振であると判断できるのか?という問いに進んだ。

 まず、共振についておさらいしよう。

 ・物体には、もっとも振動しやすい固有振動数が存在している

 ・固有振動数に近い振動が与えられると、その物体は大きく振れていく

 ・この現象は、日常的な感覚では信じがたいほど、入力に対して大きな動きを実現する 

 だいたいこういったところである。

 では、これをフィルマットの幽霊ブランコにあてはめると、どういう状況なのだろうか。まず、吊るされたシートの一つをブランコA、ひとつをブランコBとして考えよう。Cはおいておく。

 仮定の話として、次のような状況が推定できる。

 1.ブランコAに少し揺れる程度の力が加わる。
 2.ブランコAは振り子状態なので、力に見合った程度揺れる。小さい。
 3.ブランコAが揺れているあいだ、その振動がブランコを吊るす棒に伝わる。

 ここまで異論はない。

 4.吊るす棒の振動が、ブランコBの固有振動数に近づき、ブランコBが揺れだす。
 5.吊るす棒の振動が続き、ブランコBは
共鳴・共振によって大きく振れる。

 この二つが成立することがキモである。

 と、ここまで書いてきたが、実はこの無人で動くブランコの現象は、既に知られていた現象だったらしい。

 次のブランコは、共振を利用してひとりでに漕ぎだす現象が楽しめる構造の、科学おもちゃ「共振ブランコ」である。

   左の写真は、(財)日本科学技術振興財団会長賞を受賞した、科学おもちゃの「共振ブランコ」である。
(橋本 静代/発見工房クリエイト 所長)

 これは、一方に力を加えると、力を加えた方のブランコが小さく揺れるが、同時に、ブランコが連結された2段目の棒も少し振動することで、もう一方のブランコの固有振動数に近づきながら、振り幅を大きくし、一見すると何の力も加わっていない方のブランコが、どんどん大きく揺れていくといった構造のブランコである。

 この共振ブランコの振る舞いを詳しく説明しよう。

  1. 一方のブランコAを揺らすだけで、止まっていた方のブランコBが、何もしないのに動きだす。

  2. ブランコBの揺れは、どんどん大きくなり、Aはだんだん揺れが小さくなっていく。

  3. ブランコBの揺れが最大になったとき、ブランコAは完全に止まる。

  4. 次はブランコAが、次第に大きく揺れていき、ブランコBの揺れが落ち着いていく

  5. ブランコBが停止したとき、今度はブランコAが最大の振幅に達している。

  6. これを何度も繰り返し、交互に揺れたり止まったりする。

 さて、ここで、フィルマットの事例を撮影した次の動画を観てみよう。

 

 ブランコが吊るされている上の棒に注目すると┗┛← こういう形状の部品がつき、そこにぶら下がっていることがお解かりと思う。
 これが、通常のブランコより共振しやすい
最大唯一の理由ではないかもしれないが(揺れる側や吊るす部分なども関係するであろう)、少なくとも共振ブランコであることを裏付けているように思う。

 また、映像の1分11秒あたりからは、いったん停止されて動くシーンが見えるが、動きをみると、作られた共振ブランコほど理想的ではないにせよ、同じ仕組みで動 いていることがお解かりと思う。

 さて、挙動を検討する限り、私は意図せずしてそうなった共振ブランコだということで、ひとまず決着だと考える。もし、ここで疑念がある場合は、より深い検査をしても良い。

 今回、私はたまたま、直観的な判断が「条件が重なったときに生じるレアな物理現象ではないか」だったので、直観的な判断が正しかったわけだが、当然間違えていた可能性もあったため、直観的な判断は、根拠にはならない指針程度であると考えておこう。ついでに言えば、もし私に物理学の素養があれば、すぐに「共振ではないか?」と思いつくのかもしれない。

 ともあれ、心霊現象だという主張には、懐疑的になって当然である。しかし、そこの段階で、心霊現象だという解釈が、なぜ不採用であるかという議論まではよいとして、それをすっ飛ばして、「イタズラで説明できるから心霊現象ではない」だの、安易で積極的な否定論を展開してしまう場合、ビリーバーと変わらないので注意したい。
 何か結論についてまで主張する際は、最低でもこれくらいの考察と調査はしたうえで、さらに蓋然性を妥当に自己評価しながら結論を提示すべきである。

追記:共振に必要な入力について

 当初、私はブランコAが揺れだすための入力を、風であると考えていた。実際に動画によっては「ゴー」という音が入っており、ブランコを揺らすには弱いが、トリガーにはなるだろうという推測をしていた。

ところが、本記事を読んでくださった技術者のトントロ様から、かなり良い指摘があったので、検討した結果、より蓋然性の高そうな解釈だと判断し、自己修正することにした。
トンロント様のご指摘を、一部引用する。

 

 

 

 

「ワカシム様は、共振現象の原動力を 風による遥動と考えておられるようですが、私は地面の振動がその原因の1つか もしれないと考えています。電車に乗ってつり革を観察するとつり革は構造的な 制約から電車の進行方向と直角の方向に揺れます。揺れ幅は車体の振動によって 変化します。 地面が非常に低い周波数で振動し、ブランコの固有信号数が地面の振動周波数の 整数倍の関係になったとき、共鳴現象が発生し、ブランコが揺れるのではないで しょうか。地面は一見動かないように見えますが近所の道路の振動や、以外に遠 くの工事現場の基礎杭打ちの振動などを伝えたりしますので。 」 Wed, 16 Jan byトントロ

 

 

 

 

 なるほど、と思った。思い返せば、私が子供のころ住んでいた自宅が、よくトラックや道路工事の振動で、激しく揺れていたものである。当時、その力がうまく働くことで、家の壁が割れてしまうケースがあることを耳にしたことがあった。あれもまた、共振現象だったのだ。

反証実験の方法
Experimental methods disproved

 以上、違う原因の別の事例があるかもしれないし、細部では修正が必要な場合もあるかもしれないが、私としては、共振ブランコ説の蓋然性が非常に高く、事実上、決着だと考えている。
 しかし、自分が採用する説は、かわいく見えてしまうのが人間の性であり、できれば反証実験を試みるのが、理想的な科学の方法である。といっても、これがアルゼンチンまでいくほどの案件だとは思わないため、現地調査は現実的ではないと考える。
 とはいえ、ひとまずは、共振ブランコ説を実証ないし反証するための実験を考えておくことには意義があるだろう。

 反証実験というと大げさな感じだだが、それほど凄いことではない。理想的には、まずブランコ全体が無風になり、外部から地味なイタズラができないよう、まずビニールハウス状態にしておき、中に誰も入らずに、外から撮影し続けておく。
 次に地面の振動を計測しておく。ただし、地面の振動の計測のみだと、その原因が特定できない可能性があるため、振動の最有力候補である道路の交通量は調べておきたい。もちろん近所で工事がないかの確認もしたい。また、現実的には、そういった実験を始める前に、工夫して、地面に強い振動を与え続け、同じ現象が再現できないか確認しておくという手もある。
 最終的には交通量と、ブランコの自発的な揺れに相関関係があるかをチェックし、地面の揺れ具合の計測との一致を確認したならば「工事や道路の交通に由来する、地面の振動が原因の共振現象」という仮説が、実証ないし反証されるだろう。

 ちなみに、幽霊ブランコが発生しているときに、全く他のブランコが動かず、ひとつのブランコのみが勝手に動き出すことが決定的に確認できたり、地面の振動も、風も、全く検知できない状況でも発生するならば、単なる共振ではない可能性が高くなり、さらなる調査の必要性が出てくるだろう。しかしそうなる可能性は、動画の検証と、共振ブランコのメカニズを考慮する限り、とても低いと思うが。

考察
Consideration

 さて、フィルマット以外の事例も、おそらく同様の原理であると思われる。この場合、二段目になる棒があるか、映像では確認できないが、もしかしたら、ブランコがぶら下がっている棒が筒上になっており、筒の下の部分にブランコが連結されているという構造だったり、横棒がちゃちな構造で、振動が伝わりやすいなど、共振ブランコとして成立する条件が整っていると推測しても妥当であろう。また、教会のブランコが揺れている事例では確認できないが、他の幽霊ブランコは、道路が背後にあったりするため、地面の振動による共振という説は有力に思える。

 ひとまず幽霊ブランコは、異常現象ではなさそうだが、でっちあげでもなく、物理学の妙というか、意図せずして実現された共振ブランコなのであろう。余談になるが、素人の直観も、なかなかやるものだと自惚れても許して欲しい。
 逆に、専門教育を受けていない人間でも、このくらいの洞察は可能なのであり、安易な超常解釈や、インチキだという即断に、弁明の余地がないのだと考えることもできる。

ともかく、不思議だなという好奇心を持ち、かといって安易な結論に飛びつかず、ひとまず懐疑的保留にしておくか、あるいは、さらに興味が強ければ調べてみるという姿勢が、懐疑論者の態度であろう。
 なんだか分からないことに、結論を求めて納得したがることは人間の性であろうとも、ぐっと我慢する知的勇気と、さらには、納得のゆく結論が得られたとしても、誤りである可能性を覚悟したうえで結論するくらいのストイックさが、懐疑論者には必要である。

 いずれにせよ、私としては、現時点では共振以外の原因まで検討する必要性は感じていないため、本件は決着としておく。なお、何がより蓋然性の高い別の説明を発見したり、異なる事実が出てくれば、さらなる自己修正があるかもしれない。


 
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