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幽霊ブランコ 概論
Haunted Swing Abstract
著:若島利和 協力:若島美穂 

 
 幽霊ブランコ(Haunted Swing / Ghost Swing)とは、誰も乗っていないブランコが、ひとりでに動き出し、あたかも人が漕いでいるかのように動き続ける現象を指す。

この現象は、過去にも散発的に報告されていたが、世界的に注目されるようになったきっかけは、2007年6月に報告されたアルゼンチンのサンタフェ州にあるフィルマットという町の児童公園で生じた事例である。

フィルマットの幽霊ブランコは、衆人環視のなか、カメラが向いていようが科学者が測定機器を片手に調査しようが関係なく発生し、ライブ中継も成功するなど、完全な再現性を備えており、超常現象史上に類を見ない事例でもある。

この無人のブランコが動きだす不可解な現象は、メディアが報じてからも止むことなく続き、2007年8月にはアルゼンチンの全国民が注目していたといっても過言ではないほどの騒ぎに発展した。とりわけ現地調査を行った物理学者が「物理的に説明できない」という結果を出した10月からは欧米メディア*1も報じるようになり、騒ぎが本格化する。

報道によればこの幽霊ブランコ現象は原因不明とされ、しばしば「幽霊」と結びつけて報じられている。また、報告から数年を経た現在も「原因不明」やオカルト的な説明がなされている傾向にあるのが現状である。

具体的な現象は論より証拠、ここでは比較的短い23秒程度の動画を一例紹介しておく。


これは膨大な映像記録の一つに過ぎない (2007年8月撮影)


 さて、我々はこの現象について2008年から注目しており、十種以上の映像記録を精査した結果、「条件が整うことで生じた自然の風が原因の共振を含む自励振動の一つ」とする物理現象説を提案し、より詳しいメカニズムに関しては「風あるいは地面の振動とブランコの固有振動数が一致して生じる共振振り子」*2 とする説を有力な説とした。

また、高い精度で具体的な仮説の妥当性を確認したい場合のみ、風を遮断した状態での反証実験を含む現地調査が望ましいが、自然の風によって生じる物理現象であることは映像記録から明らかであると結論していた次第である。

ところが、その後アルゼンチンのAntonio Las Heras博士が、2011年に二度目の現地調査をした結果、改めて自然現象説を棄却した他、超心理学者を自称するIrene Fournier博士も現地調査の結果、同様の判断をしていることが判った。

なかでもAntonio Las Heras博士は物理学者ではないものの、心理学などの学位を持っており、それ以上に複数の科学関連団体で要職を担う大物研究者であることから、その調査と結論は傾聴に値するものと思われた。しかしながら、博士の調査内容を検討したところ、少なくとも「幽霊ブランコ」の調査は、博士が無能でないと仮定すれば地元の名物に対する政治的な配慮が疑われるほど、極端にお粗末な「実験」もどきしかしていない。さすがに、幽霊とは結論していないが、超常性を過大評価したオカルト説を提起しており、とてもではないが支持できる内容ではない。

とはいえ、この現象は2007年から6年が経過した今日にいたるも継続*3しており、我々は、これが幽霊の働きならば、その無尽蔵のスタミナを、あるいは、誰かの悪ふざけであればその情熱と根気を称賛する用意がある。

そこで我々は、改めて2009年以降の新しいものを含めた膨大な映像記録をもとに再検討を重ねた結果、まず、具体的な仕組みとしての単純な「共振振り子」とする説では、不都合があると結論することになり、この説は棄却した。

その一方で、風による自励振動の一つとする当初の物理現象説そのものは、より強固に支持できるようになり、基本的な解釈について変更する必要性は認められなかった。

今回、結論を補強することができた要因は2011年4月に米CATV局の「Fact or Fake*4という――評判が良いとは言えない――超常現象の番組が、まさしく我々の欲していた実験をしており、その映像を存分に分析することができたことである。

この番組では複数の実験をしているが、我々にとって特に重要な実験は、ブランコの精巧なレプリカを現地に併設し、ブランコ全体を仮設テントで覆った無風状態にしてから、適度な風速の風を送るというシンプルな実験である。

その結果、番組では風が原因であるという結論を出しており、実際に、これは妥当な結論ではあるのだが、番組での実験と解説は誤解と不備があるのも事実であった。

そうした弱点があるためIrene Fournier博士を始め、この番組の実験に対しては、自然現象説を認めない陣営から疑義が呈されている。

ただし、幸いなことに、これまでに我々が蓄積していた知見から、番組の結論に対する疑義や批判に対しては反論できるため、当該番組の実験映像を補強する形で、結論を支持することができる。

とりわけ同番組の実験映像から、ブランコのシートと直交する方向からの風のみでも、現象が再現できることが判った他、当該ブランコの物理的特性に関する(我々にとって)新しい、かつ重要な発見もあり、基本的な解釈としては、我々が初期から出していた「風による共振を含む自励振動の一種」とする物理現象説を改めて確認できた次第である。

なお、我々は「単純な共振振り子」とする初期の説は棄却したが、現時点で、可能性が高いとする説明は、自然の風に起因する「空気力の負減衰効果による自励振動」とするものである。

風が構造物に与える影響には種類があるが、構造物が特定の条件を満たすと、ある風速(限界風速と呼ぶ)を越えたとき、それが――非周期的な自然の風であろとも――継続的に吹く限りは、止むことのないねじれと曲がりの運動を誘発し、構造物に破壊的な影響を及ぼす発散型の振動に発展し得ることが知られている。*5

我々は、こうした発散型の振動のなかでも1940年にタコマナローズ橋を崩落せしめた「ねじれフラッター」*6との類推から、フィルマットの幽霊ブランコもまた、発散型の振動が散発的に生じることで、振り子運動が維持されているものと考える。

また、中央のシートが両脇よりも圧倒的頻度で揺れる原因については「幽霊のお気に入りだから」という魅惑的な説も考慮したが、我々としては、実験映像から中央シートを吊るすチェーンと上部の接合部の摩擦が少ないという、中央シート固有の物理的特性に起因するものと結論した。(これは幽霊ブランコ現象が始まってから数年でさらに顕著になった可能性が高く、いくつかの根拠もある)

ただし、こうしたメカニズムを幽霊ブランコに当てはめて定量的に説明することは、あまりにも専門性が高く、明らかに我々の手に余る*7ため、当面は風に起因する珍しい物理現象であると納得できるだけの根拠が示せれば十分だと判断し、本篇でも具体的なメカニズムの証明よりも、風による自励振動とする幅広い解釈の実証に力点を置いた。

本篇へ>

※1 一例として2007年10月28日英サン紙「Ghost haunts kids' playground」を紹介する
 
「  アルゼンチンのフィルマットにある児童公園で、無人のブランコが揺れ動くという不可解な現象が起こり、科学者を困惑させている。

地元の児童や保護者たちはこれが幽霊であると確信している。

このブランコは、およそ4ヶ月前に動き始め、驚いた子供たちが警察に通報したが、当局もわけが判らず、フィルマット在住の物理学者に現地調査を依頼した。

その結果、風や電磁気などの自然現象やイタズラの可能性は除外されたが、論理的な説明が得られず、科学者も匙を投げてしまった。

住民によると、ブランコは停止するまでに最大で10日間もノンストップで動いていたこともあるという。

地元教師マリア・デ・シルバさんによれば、一人の子供が「ブレアウィッチ公園だ」と言っており、皆、幽霊の仕業だと信じているそうだ。」
 

※2 自励振動とは、構造物が振動的ではない外部からの入力によって振動が生じ持続する現象の総称。人間がブランコ(振り子)の固有振動数に合わせて重心を上下する(つまり漕ぐ)行為は、周期的な外力による共振によって振幅を大きくしていることになるが、こうした振動は「パラメトリック振動」と呼ばれ「自励振動」とは異なる。

当初、我々が幽霊ブランコの仕組として「共振振り子」を想定した理由は、日本の科学おもちゃである「共振ブランコ」との類似性からであった。このブランコは、一つのシートが振り子運動をすると、その振動が隣のシートに伝わり、勝手に振り子運動を始め、まさに幽霊ブランコ状態になるよう力学的な工夫が施されており、フィルマットの事例も、意図せずして成立した「共振ブランコ」ではないかと推測していた。我々の再検討の結果、その推測は誤りだったと考え今回、改めて棄却した。ただし、当初から、この具体的な仕組みについての仮説は確証がないため、確実なのは「風を要因とするなんらかの自励振動」という広い解釈を信頼できる結論と結んでいた。
 
※3

2007年は大量にあるので、2008年以降の撮影記録を一例ずつ紹介する。
2008年 2009年 2010年 2011年 2012年 2013年

※4 Fact or Faked: Season2 Ep#16,2011/4/13放映

※5

発散型の振動とは破壊的振動とも表現され、構造物(吊り橋や航空機の翼などで研究されている)にこの振動が発生してしまうと、風が吹き続ける限り、揺れ幅が増幅し続けてしまう危険な振動である。この現象は、容易に構造物を破壊してしまうため専門的な研究も進んでいる。こうした発散型の振動に対して、振動が始まっても一定以上の振幅には発展しない振動を限定振幅振動と呼ぶ。

※参照:長崎大学公開講座「構造物とテクノロジー」資料『橋の文化とテクノロジー』

※6

一般にタコマナローズ橋の崩落事故は、「カルマン渦の発生周期と橋の固有振動数が一致した共振(渦励振)」によって生じたと説明されるが、実際はもっと複雑なことが生じていたようである。比較的詳しい文献にあたると、タコマ橋の崩落は、カルマン渦との共振で上下の振動が生じ、それがねじれフラッターという発散型の振動に発展し、これが原因で崩落したとされている。

※参照:
 長崎大学公開講座「構造物とテクノロジー」資料『橋の文化とテクノロジー』
 『タコマ橋の航跡:吊橋と風との闘い』リチャード・スコット (2001)
 『だれがタコマを墜としたか』 川田忠樹 , 建設図書 (1999) 
 『片山技報 No22』「京都大学松山勝教授:特別寄稿文」(2003)

※7

近年、風と構造物の複雑な影響は専門性の高い数値流体力学において「連成体問題」として研究されており、はっきり言って素人が勉強してどうにかなる話ではない。

※参照:『日本数値流体力学会誌』 9巻 第4号 2001/8

 

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