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信じ込み症候群
true believer syndrome
 



「 人はなぜこうした連中のいんちきの手口や、いかさまで大儲けしている実態を知ったうえで、なお連中の超能力や超自然的能力を信じ込むのだろうか。定義上、トゥルー・ビリーバー・シンドロームにかかった人は非合理的にこうした信仰へ走るため、彼らと話をしても議論が一致することはない。こうした人たちはトゥルー・ビリーバーという語の定義上、精神医学的観点から欺かれていると言える。彼らは間違ったことを信じ込んでいるので、証拠や議論によって彼らの考えが誤っていると説得されるのに必要な資質を欠いているのだ。」

The Skeptic's Dictionaryより

 「true believer syndrome」とは、元売れっ子職業霊媒のラマー・キーンが、改心した後に書いた不朽の名著『サイキック・マフィア』において表現した認知障害の一種である。
 (※邦訳では「狂信者症候群」とされているが、意味があまりにも違うため、The Skeptic's Dictionary Japaneseが採用した、より原義に近い「信じ込み症候群」という語を採用する。)

 信じ込み症候群とは、それがただのインチキにすぎないことが、決定的に証明されたあとでさえ、それを真実として信じ込み続ける認知障害のことである。こういった心の振る舞いは、自己欺瞞というかたちで、大なり小なり日常においても散見されるが、ラマー・キーンが、なぜわざわざそのように表現したかというと、職業霊媒として味わった異常事態が、ただの自己欺瞞という枠を飛び出しているほど凄まじかったからである。

 インチキ霊媒として稼ぎまくったキーンは、良心の呵責に苦しみ続けていた。そしてついに、自分がやってきた全ての霊能力が、だけでなく、霊媒キャンプ全体がインチキで恥知らずな詐欺であることを告白した。

 このときに彼が味わった異常な体験は、ある意味でホラー映画よりも恐怖度が高い。少し長いが評議会において、信者と同僚の前でインチキを洗いざらい暴露した後の下りを引用しよう。
 ※以下引用文中の「ラウール」というのは、ラマーの同僚で別のインチキ霊媒。
 

「 (引注:霊媒キャンプが完全な詐欺で、顧客情報の収集から心霊写真のトリックまで、とにかく徹底的に暴露して告白したところ)
  一人の女性が声を張り上げていった。

 『悪いけど、わたしはあなたの意見に賛成です。わたしの霊たちは、もし正しくないことなら、それにかかわってはならないと、あなたを通じて教えてくれましたからね』
 (この驚くべき発言―わたしが「霊たち」について真相を打ち明けたばかりだということを考えれば驚くほかない―を聞いてわたしは言葉を失った。わたしは、この人たちはみんな頭が完全にイカれているのだろうかと思った。)

 べつの女性が立ち上がって、自分も賛成だといった。

 『なんとしても、この状態は変えなければなりません』

 わたしの意見を支持してくれたのはこの二人の女性たちだけだった。

 『ラウールの決めたことがなんであれ、それがわたしたちの望むことなのです』 と一人の女性はいった。

 『さっきあんな話を聞いたのに?』わたしは相手をさえぎった。

 『ラウール本人がここにいるみんなの前でそれを認めたのに?』

 評議会のメンバーの一人で、自分では五十五歳だと思っている七十歳代のごくしとやかな女性が立ち上がると、人をたじろがせるような目つきでわたしを見つめ、吐きだすようにいった。

 『黙って座ってなさい!』 (おもしろいことに、この女性の亭主は妻が霊に夢中になることにずっと反対していたが、その後亡くなって妻に莫大な遺産を残した。彼女はラウールの新しい教会にいまも金を注ぎつづけているということだ―心霊主義の裏の仕組みを知らされたというのに。いったいどういう頭の構造をしているのだろう?)・・・略

 わたしは打ちのめされた。

 人々に嘘を信じこませるのがいかに簡単かは知っていたが、同じ人々が、嘘をつきつけられたとき、真実よりも嘘を選ぶとは予想していなかった。

 評議会のメンバーの一人で、教会に加わるためにわざわざオハイオ州から引っ越してきて、金や資産をおしみなく寄付していたジョージ・マザーンは、ラウールに『きみは自分がわたしをだましていたというつもりかね?』とたずね、その答を得た。

 『そのとおりです、ジョージ』

 しかし、このあとも彼はラウールの隣の席に座りつづけ、いまでもなお熱心に心霊主義を信じている。

サイキック・マフィア』より

 いかがだろうか…霊媒術の全てが、まさに全てがペテンであることを告白し、相棒だったラウールさえ、それを認めざるを得ないほどラマー・キーンは評議会で熱弁を振るったのである。
 それほどの説得力を持って語ったのである。相棒だったラウールが言い逃れをあきらめ、ペテンであり騙しているということを認めざるをえないほど…。

 その状況下において、これまでの「霊の言葉」に従ってラマー・キーンについた女性のイカレっぷり。そしてペテンを認めたラウールに従い続ける者…

  これが強烈な認知障害の一つであることに疑念の余地はない。

 しかしながら、こうした症状を呈する人々が、社会的にも知的にも正常な範囲の普通人であることを考えると、理解に苦しまざるを得なくなる。
 とはいえ、並々ならぬ異常さではあるものの、認知心理学的な視点から考察していけば、ある程度までは説明することが可能かもしれない。というのも、全く同じような事例が、認知心理学の分野で調査されているからだ。たとえば、認知的不協和理論を有名にしたカルト教団の信者達のケースが有名である。
 彼等はインチキ教祖による非常に重要な終末予言が、ものの見事に外れたにもかかわらず(教団にとっては致命的なことだったはずなのに)脱退するどころか、なぜか以前よりも教団に執着し、前よりも教団の宣伝活動に尽力したりと、理解しがたいほど教祖を信込み続けたのである。
 以前よりも強く、という部分などはラマー・キーンのケースと同じであろう。
 つまり、信じ込み症候群は、認知的不協和の軽減策の一つ、あるいは認知的不協和が一線を越えた場合の、極めて特殊な反応なのだろう。
 しかし、認知的不協和理論で説明できたとしても、その異常さの原因を真に説明したことになるとは思えない。信じ込み症候群は、その度合いが強大すぎることで、量の違いが質の違いになるほど不合理であるし、あまりに常軌を逸している。
 私には、こういった不合理な状況が、ただの認知障害というより、脳疾患の極端な症例に酷似しているようにすら思えてならない。しかし、トゥルービリーバーは明らかに健常者なのだ!
 そのようなわけで、ラマー・キーンの表現した「信じ込み症候群」は、認知障害という枠の中でも異常さが高く、ひとつの疾患として分類しておく価値があるだろう。そしてまた解明もされねばならない現象だと思うのだった。
 


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