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哲学的懐疑主義と科学的懐疑主義
Philosophical and Scientific



 かつて、スティーブン・J・グールドは「懐疑主義の実証力」*1において、次のように語った。

「懐疑主義には、古代ギリシの哲学から、カール・セーガン最後の著作にいたるまで、由緒正しい伝統がある」

たしかに、これは正しい。しかし、その説明の仕方は、しばしば現代の懐疑主義に対する誤解と混乱を招く場合がある。

ちょっと考えてみよう。

そもそも懐疑主義(Skepticism)というとき、一般には何を意味するのだろうか。

私の経験上、もっとも多いと感じるのは「とにかくすべてを疑う立場」「何も信じないこと」という解釈である。その延長にあるものは、判断と行動の停止に陥った非合理な哲学かぶれや、自己矛盾した認識的相対主義あるいは独我論ということになるだろう。

しかし、それはいずれも誤解である。

本来の文脈で懐疑主義(Skepticism)という場合は、西欧哲学思想史に登場する哲学の懐疑主義(ピュロン主義だのイギリス経験論だの)を指すのが普通だ。
 
こういった哲学思想史上の懐疑主義は、支持する結論が異なる場合もあれば、そもそも哲学としてのカテゴリが異なるものまで、必ずしも単一の哲学ではないが、学問としての哲学カテゴリに入る懐疑主義である。そこで、これらをして、哲学的懐疑主義(Philosophical Skepticism)と呼ぶ。

この哲学的懐疑主義の詳細は別項:哲学的懐疑主義(Philosophical Skepticism)を参照願う。

一方で、20世紀の中後半、疑似科学やオカルトや超常現象が世界的に大流行し、非合理が無批判に垂れ流され、軽信する風潮が深刻化するにつれ、事態を憂慮する科学者等が中心になり、非合理的信念の蔓延に対する抵抗勢力として登場した立場も、懐疑主義と呼ばれている。

その流れは、1976年に哲学者ポール・カーツによって、懐疑主義団体のCSICOP(サイコップ,超常現象の科学的調査のための委員会) が発足してから、本格化することになる。

この活動は、初期には団体が分裂するほどの失敗もあったが、時間と共に、疑似科学や超常現象の批判的研究を整備していくことに成功し、懐疑主義としての立場を確立してきた。

しかしながら、それは、関心領域をはじめ、哲学的懐疑主義とは異なる側面が強いため、必ずしも両者は無関係ではないが、区別するために科学的懐疑主義(Scientific Skepticism)という呼称が用いられている。

科学的懐疑主義は、自然主義(naturalism)や、世俗的ヒューマニズム (Secular humanism)デバンキング (Debunking)、クリティカルシンキングなどによって特長付けることが可能である。

ただし、科学的懐疑主義は、固有の哲学の呼称というよりも、むしろ、活動する立場の総称、ラベルとしての役割を果たして成立したという方が実情に沿うものであり、必然的に、立場の明確化については厳格でなく、呼称も統一されていないのが実情である。

たとえば、科学的懐疑主義のみならず一般的懐疑主義(Ordinary Skepticism)、合理的懐疑主義(Rational Skepticism)など、複数の呼び名があることからも事情を伺い知ることができよう。

また、この状況を理解するには、科学者が科学「哲学」に無頓着であるのと同じように、懐疑論者も科学的懐疑主義「哲学」に無頓着な場合があると考えれば良い。

ともあれ、以上、懐疑主義といっても、大きく二つの懐疑主義があり、後者と前者を混同すると、大抵はおかしな議論になるため、基礎知識として、この区分は知っておくと良い。

詳細は別項科学的懐疑主義(Scientific Skepticism)を参照いただきたい。


※1 スティーブン・J・グールドは「懐疑主義の実証力」において

 「懐疑主義の実証力」(原題:The Positive Power of Skepticism)とは、スティーブン・J・グールド(Stephen Jay Gould1941年-2002)が、マイケル・シャーマー(Michael Shermer)なぜ人はニセ科学を信じるのか』(『WHY PEOPLE BELIEVE WEIRD THINGS』)に寄稿した序文

訳書から
正確に引用すると「…この行為には、古くはギリシャの「懐疑学」(もとの意味は「思慮の深さ」)の創設から、カール・セーガンの遺稿でもある『カール・セーガン 科学と悪霊を語る』(青木薫訳/新潮社)にいたる、由緒正しい伝統がある」となっている。

存命中は、アメリカで最も有名だった科学者の一人にして、創造科学と戦った論客。

ネオダーウィニズムの解釈として、主流の「漸近的な進化」に対し、断続的平衡説を提唱するなどの異端だったが、CSICOPに所属しており、懐疑論者としての横顔を持つ。この分野の著書としては『人間の測りまちがい―差別の科学史』があり、人種差別的な疑似科学としての骨相学やIQ神話を検証した大著として、重要な古典である。戻る


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