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ジョーカー
Joker
 


 何か新しい超自然現象が話題になったとき、往々にして「できっこない」「理由がない」といって、人為的なものである、あるいはイタズラである、という可能性を切り捨てる論者は後を絶たない。

 超常現象や心霊現象の主張に対し、イタズラ、不正、幻覚、精神疾患という説明は、なんでもアリに等しいため、よほど強い根拠がない限り、結論として採用するのは困難 かもしれない。少なくとも人々は納得しないだろう。
 それは当然のことではあるのだが、だからこそ強調したい。なんとも奇妙な話の場合、少なくとも「イタズラ説」は、仮説の一つとして注意を払うに値する のだ、と。

 日本人にはあまりなじみがないが、世界には、恐るべき情熱をもって悪ふざけを慣行する「ジョーカー」と呼ぶ べき連中がいるのだ。
 まあ突然ジョ−カーといわれても、馴染みのない言葉であろうかと思うので、ジョーカーについて説明をし たい。少々長めだが、江戸川乱歩著『ペテン師と空気男』における登場人物のやりとりが、非常によい説明になっているので引用しよう。

 これは、手の込んだイタズラ」を趣味にしている人物(ジョーカー)と主人公のやりとりである。
 
   あなたはプラティカル・ジョークということをご存知でしょう。わたしはプラティカル・ジョーカーをもって自任しているのですよ

 「冗談のいたずらという意味ですね」

 まあそうです。しかし、プラクティカル・ジョークというものは、れっきとした芸術ですよ。
 ぼくはいささか、その方面の研究をしているものです。西洋には有名なジョーカーの伝記が、いろいろ出ていますよ。日本でも滝亭鯉丈の『八笑人』や梅亭金鵞の『七偏人』などが大がかりなプラティカル・ジョークを題材にしている。しかし、あのジョークは大がかりなわりに、創意は乏しいですね。
 膝栗毛の十返舎一九は小説でもジョークを書いたが、かれ自身が大ジョーカーでしたね。かならず自分を火葬にしろと遺言して、自分のからだに花火をしかけておいて、みんなを驚かせた。ところで、これと同じことをやったアメリカ人がいるんだからおもしろいですね。
 スカイラークという町のチャールズ・ポーターという大金持ちですがね。やっぱり遺言をした。自分が死んだら庭でたき火をして、寝室の戸棚にしまってある『秘密』と書いた箱を出して、封のままたき火に入れて燃やしてくれというのです。
 
このポーター氏には3人のむすこがありましてね。それぞれ財産を譲られたので、おやじの遺言は無にすることができない。その箱の中には、なにかおやじの生涯の秘密が隠されているのだろうと、封をひらかないで、庭のたき火の中へ入れて、燃えつきるのを待ったのです。その3人の息子と、弁護士が立ち会っていたのですね。すると、箱の中へ火が通ったかと思うと、おそろしい爆音が鳴り響いて、いろいろな形のうつくしい花火がいっせいに炸裂したというのですよ・・・ジョーカーの心理というものは、西も東も変わらないものですね

  「すると、あなたのさっきの金の壷の話もジョークだったのですね。ただ黒い絹ひもをくわえていらしただけですね」

  そうですよ。ちょっと気のきいたジョークでしょう。しかし、白状すると、あれはわたしの発明じゃない。ずっと前に、ジム・モーランというアメリカの哲学者が、実際にやって成功したジョークです。モーランは旅客飛行機にのって、あれをやっていたのです。その飛行機におおぜいの大学のフット・ボールが乗りあわせていた。大学生たちは、むろんあの黒いひもに気づいて、ヒソヒソと話し合っていましたが、そのうちに、くじ引きをして、くじに当たった学生が、モーラン氏のところへ来て質問した。その答えは、さっきわたしがしたのと同じだったのです。もっとも、大学の名はジョンズ・ホプキンズでしたがね。学生たちは、さっきのあなたのように驚きました。かれらは各地方から集まっている学生なので、それぞれの郷里へ帰って、この奇妙な話を広めてくれるかと思うと、実に愉快だったと、モーラン氏はいっているのです。そこにジョーカーの人知れぬたのしみがあるわけですね。」

 『ペテン師と空気男』江戸川乱歩(著)より

 

 ここで語られているように、プラクティカル・ジョークの定義はずばり「利得の絡まないペテン」であり、それを趣味にしているジョーカーなる連中は、たしかに実在する。

 ところで、なぜプラクティカル・ジョークにそれほど情熱を持つ人がいるのか、多くの人が疑問を抱くのではないだろうか。

 そう、ミステリーサークルを創ったダグとデイブを考えよう。1978年から作成し、サークルがやっと注目される1980年までの2年間、誰も気づいてくれないにも関わらず、実に2年もの間、夜中に麦畑に侵入してはサークルをせっせと造っていた。
 後発のサークルメーカーには、UFO観測会の情報をキャッチすると、現場付近にサークルをこっそり作成しておくのはもちろん、風船にライトをつけたUFOまで打ち上げるというサービス満点な連中もいた。
 そういう手合いは、私の知人にも一人いた。彼は友人宅のトイレにかけてあったカレンダーの、次月以降の全ての日にち、実に100日以上に対し、なんと日記を書き込むという下らない作業を実行した。家人に悟られぬよう、ただもくもくとカレンダーの1日ごとのマスに 日記もどきを書き込むのだ。
 数日後に家人がカレンダーをめくったところでびっくりである。最後までびっしりと毎日毎日「今日は犬が死んだ。ブルー」などと1行日記か書き込んであるのだ。

 いったい何故だろう。

 実のところ、ジョーカーの動機を理解することは難しい。それは、数学者に数学をする動機を問うことと同じ質の問いであるからだ。 ジョーカーは、しばしばことが発覚したあとに「何々に対する警鐘だ」だの、非常にもっともらしい理由をつけるケ−スがあるが、私が知る限り、ランディの「カルロス様」の事例のような例外を除いては「愉しいからだ」ということが、本音に近いということを、誓って言える。

 思うに、動機を問うことがそもそも誤りであり、むしろ無意味なイタズラであるからこそ、信じられない情熱と労力をかけたり、必要であれば費用も惜しみなく使うのがジョーカーであり、そのことそのものが矜持でもあり、粋な心意気なのである。そして、 その誇りと愉しみが、ジョーカーのストイックさの起源なのであろう。また、あえて付け加えるならば「思い付いたからにはやらずにおかれない。たとえ迷惑であろうが。」という気性の持ち主である可能性も指摘できるかもしれない。

 以上、簡単ではあるが、プラクティカル・ジョークとジョーカーについて述べてみた。そして、このジョーカーの仕業であることが確実なものや、疑わしいものを含め、超常現象や疑似科学領域にはいろいろと存在している。判明しているものをあげれば、ミステリー・サークルもだし、「第三の選択」、「アイアンマウンテン報告」、「鼻行類」、「サンジェルマン伯爵」と模倣犯、UFO報告のいくつか(円盤型の気球を作った者もいる)などなど、たくさん存在している。


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