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デバンキング
Debunking
 


 デバンキング(Debunking)とは動詞のdebunkにingをつけた動名詞である。

 一般に、超能力、UFO、宗教、代替療法、疑似科学などの領域にある個別の主張に対し1、その虚偽や誤りを暴く行為という意味で用いられている。

 訳書や辞書では「すっぱ抜き」や「暴露行為」2となっているが、個人的には「仮面を剥ぐ」が良い意訳であると思う。

 なお、DebunkingやDebunkerという表現は、元来、あまり良い意味の言葉ではなく、侮蔑の意味も含んでいたようだが、近年では「疑似科学などの虚偽を暴く行為」という意味で、懐疑論者にとっての標準的な用語として使われており、たとえば、MySpace3には『Debunking Pseudoscience』というコミュニティもできている。

 ただ、やはり文脈によっては「否定という結論を決めうちして、否定のための否定を行うこと」という意味でも使うため、多少の注意は必要である。

 ともあれ、英語のDebunkingには若干の含みがある場合もあるが、日本語としては・・・
             
   必要な知識を有する者にとっては、誤りであることが明白な主張に対しても、観念論のみで「ヨタ話・疑似科学」のレッテルを貼るだけでなく、それが「どのように誤りで、何が虚偽であるか」まで調べ、具体的に否定する行為  

 という意味で、カタカナの「デバンキング」と表現し、使用されている。

 また、本来の意味では、Debunkingと呼ぶべきでばないが、グレーな案件を調べているうちに、やっぱりそれが真っ黒だったという結論に至ったことで、調査結果の総括が、そのままデバンキングになっている場合もある。そのケースには、懐疑論者が、自分の確信が誤りである可能性に目を背けず、自身が否定的に考えている主張の、もっとも強い肯定論の根拠を、客観的に調べ、批判対象に詳しくなった結果、それでも虚偽を暴くことになったという場合 などがある。
 その場合は、否定的結論を決めうちしてから対象に接するわけではなく、ものによっては「蓋然性は低いがグレー」という結論に至る場合もあり、原義のDebunkingとは文脈が異なっている。だが、そういった調査からのものであろうが、最終的に強力な否定論の発信にいたった場合、少なくとも日本語では「デバンキング」という言葉で表現してよいだろう。

 なお、ほとんどのデバンキングは、否定的結論を確信した、否定ありきな心情から開始されるため、懐疑論者としての知的誠実さ、ストイックさ抜きでは簡単に似非懐疑主義(Pseudo skepticism)に陥ってしまう。
 この危険性は、実際に実験したり現地調査をする場合もだが、それだけでなく、既存の情報の参照を含む、文献調査主体のデバンキングでこそ、とくに重要である。 クリティカルシンキング(Critical thinking)が必要なのはビリーバーだけではない。

 ところで、なぜデバンキングを―なぜ虚偽を確信している事例の調査を―するのかといえば「ウソなのは判っているんだが、真相を詳しく知りたい」という懐疑論者の知的好奇心 や、無批判なビリーバーが多い主張のカウンター情報を流すことに意義があるだろうと考える使命感、ただの趣味、あるいはそのいずれもという場合もあるだろう。
 具体例として、ASIOSのメンバーでもある蒲田が個人的に調べてきたロズウェル事件4に対する調査『Myth of Roswell Incident』が挙げられる。
 これは、2008年現在、日本国内において発信されているロズウェル事件についての情報としてはもっとも深く広い。だが、蒲田本人は、調査する前からロズウェル事件が虚偽であることを強く確信していたし、知っていたうえで、あえて探求したものである。
 実際のところ、この事件は、UFO現象・UFO業界について、十分な知識を持つ者にとっては(懐疑論者だけでなく)UFO現象の超常性を肯定している研究者からも、全くのデタラメであると認識されている。そのような程度の神話であるため、仮に深く調べても、墜落した異星人の死体やらなにやら、額面どおりの興味深い何かが出てくる類の話だとは思われていない。

 にもかかわらず、それが「どのように誤りで、何が虚偽であるか」まで調べる行為が、デバンキングである。

 ここでは、現実に存在する優れたデバンキングを2つほど紹介する
 

 

         

1.


対象


 「魔のバミューダ海域」 謎の船舶失踪、事故多発ほか
 
 


調査者


 ローレンス・D・クシュ Lawrence David Kusche
 
 


内容


 魔のバミューダトライアングルとして、謎の船舶失踪事故が続くとされた同海域において、本当に謎の事故が起きていたのか、可能な限り後追い調査をし 、奇妙なことはおきていないようだということを実証した。
 
 

 

   
 

方法

 同海域の謎の事故として報じられた記事をチェックし、まず、海運局他関連省庁に確認するなどして、いつのどの事故なのかを特定。
 本当に存在した事故だった場合、さらに調書や通信記録、裁判記録、インタビュー記事、現地への問い合わせ、遺族の声、当日の気象、、、ともかく関連がありそうな記録をかたっぱしから調査。
 その結果、実に、56例もの「謎の事故」について真相を調査し、ほとんどの事例について決着させた。
 
 

 

   
 

所見

 おそらく、世界中の懐疑論者をあつめ、最高のデバンキング決定投票を した場合、優勝候補の一角に挙げられるであろう濃密で凄い調査。
 「謎の事故が多発?ああ、報道されたうち、可能な限り一例ずつ調べてみましたが、んなことありませんでしたよ?」といえるのは素晴らしい。私はこの調査をただ尊敬する。
 余談だが、私個人、人生の目標の一つに、この調査と同程度のデバンキングを一つでいいから行うことがある。天才でなくとも、努力によってこれほどのことが可能だという実例でもあるからだ。
 
 

 

なお、この調査の詳細は『魔の三角海域・その伝説の謎を解く(角川書店)』にて読むことができる。  
 

 

   

 2.


対象


 「マクダネル超能力研究所」の超能力(PK)研究
 
 


人物


ジェイムズ・ランディ(James Randi)
 
 


内容


 当時もっとも資金が豊富な超能力研究所であった、マグダネル超能力研究所(McDonnell Laboratory for Psychical Research)でなさている超能力研究が、いかに無能で無価値なものであるかを証明した。プロジェクトアルファとして有名である。
 
 


方法


 ランディは、まず同研究所に対し、偽者を見抜く技術、いかにしてトリックを見抜くかといった助言を送り、また要請があれば無償で実験に立ち会うと申し出た。ただ、それは無視されている。
 (ランディは超心理学に対する不毛な攻撃をした前科があるため、拒否は仕方がないが、それならば別のマジシャンを採用するなども可能で、マクダネル研究所側には弁解の余地がない)

 そのうえで、ランディは次の計画を実行に移した。

 Steve Shaw(芸名:Banachek)とMichael Edwardsという二人の若いマジシャンを、この研究所に超能力者として送り込み、マジックの素養があればすぐに看破できるレベルのトリック(ときにはヒントつき)を実演させた。

 本来、真面目な研究ならば、ここで看破されるべきにもかかわらず、また、ランディの助言を受けていたにもかかわらず、研究所スタッフは見抜けないうえ、二人を超能力者であると確信する。
 そして、実に3年もの期間、金属曲げ、念写など、すでに超心理学者によっては否定していた類の、決着済みな演目をやってみせた。
 そしていよいよ真相が暴露され、これ以上ないくらいマグダネル研究所の超能力研究のレベルが露になってしまった。

 
 


寸評


 暴露された2年後、1985年に研究所は閉鎖された。
 これは仕方がないだろう。これにより、その手の超能力を研究する超心理学者は立場を失ったといっていい。
 そもそも85年では、超心理学者でさえユリ・ゲラーのスプーン曲げなどは、ただのインチキとして認知していた。(『サイの戦場』収録の記事を参照)
 
 また、PKなど、強い超能力の実在を信じ、研究を肯定する人の中には、この話を聞いても、たまたま能力の低い怪しい連中がひっかかったのでは?と思うかもしれない。
 だが、この研究所が1979年に創立してから、300人程度の自称超能力者が応募しているなか、実際に採用されたのはこの二人だけだったということから判るように、必ずしもいい加減な研究者が、盲目的な研究をしていただけの状況ではなく、だまされやすいバカな研究者というよりは、ランディが助言したような、マジックを見抜くスキルの欠如が致命的だったという解釈になる。したがって、たまたま無能な研究者を標的にしたというフォローは難しい。
 ただ、この例を持って、超心理学業界全体の無能を実証したとする論調は誤りである。PKなどの、いかがわしいものと距離をとり、あるかないかは別としても、科学的方法に準拠し、冷静に研究している超心理学者も多くいる。
 プロジェクトアルファは、そっち方面の研究には何も影響を持っていない。逆にランディは、超心理学が微細な効果の探求に絞った統計的手法に批判を加えたときに、やり返されたこともある。その件は別の機会に。

 ともあれ、このプロジェクトは、懐疑主義の歴史における偉業の一つであることに間違いはない。

 

 

 

 なお、別項のデバンカー(Debunker)も、関連する解説があるため参照されたい。
 


 1. 一般に〜懐疑主義の関心領域にある個別の主張が対象の場合

 たとえば海外のウィキペディアにあるDebunkerの説明

  A debunker is an individual who discredits and exposes claims as being false, exaggerated, unscientific or pretentious.[1] Debunkers often focus on topics such as U.F.O.s, claimed paranormal phenomena, conspiracy theories, alternative medicine, religion, research outside mainstream science or pseudoscientific subjects. The term debunker is applied when a person functions as an activist and performs research, writes articles, gives speeches, conducts seminars, or engages in other activities with the specific intent of discounting the validity of a dubious, bizarre, or abnormal claim.  
   

 2. 日本語訳では「すっぱ抜き」「暴露行為」という訳語が使われたケース
 たとえば、『なぜ人はニセ科学を信じるのか〈1〉奇妙な論理が蔓延するとき』で、序文グールドの言葉が「暴露行為」と訳されている。
   新グローバル英和辞典の「動詞:debunk」では「正体を暴露する, 〜をすっぱ抜く」とある。

 3. My Space
 世界的なSNSで、ランディやBad AstronomerのフィルPhilip Plait、Skepchickのレベッカ・ワトソンなど、世界中の懐疑論者も参加しているMIXIといった感じ。ASIOSメンバーも複数参加している。 

 4. ロズウェル事件
 1947年7月8日、ニューメキシコ州のロズウェルに「異星人の乗り物が墜落し、政府が隠蔽している」という触れ込みのUFO墜落事件で、アメリカ的なUFO陰謀論と強く結びついている。関連して登場したアイテムには、MJ12文書や異星人解剖フィルムなどがあり、90年代アメリカのUFOシ−ンは、この事件一色に染まっていたほどである。UFO本を読んだことがない人でも知っている有名な事件の一つ。なお、懐疑論者のみならず、ヨーロッパのUFO研究者の多くや、アメリカでも一部の真面目な調査者には、信頼性の薄い事件として認知されている。


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