懐疑論者の祈り



177-参-法務委員会-14号 平成23年06月07日

○桜内文城君 本日は、江田法務大臣が所信表明でも述べられました法の支配、そして法律に基づく行政というテーマで質問させていただきます。
 まず最初に、今日は外務省あるいは内閣官房の方も来ていただいていますので、閣議決定の法的な位置付け等についてお聞きしたいと思っております。特に、今回具体的に取り上げたいと思っておりますのは、昨年八月十日に内閣総理大臣談話として閣議決定されたものについて、これを題材にお尋ねいたします。
 先般、日韓図書協定が両院で可決成立したところでございますけれども、その基となりましたものが今申しました昨年八月十日の閣議決定、内閣総理大臣談話であります。この中で、法的に憲法あるいは法律との関係でどうなのかというくだりがございます。ちょっと読み上げますと、「日本政府が保管している朝鮮王朝儀軌等の朝鮮半島由来の貴重な図書について、韓国の人々の期待に応えて近くこれらをお渡ししたいと思います。」、こういった文言がございます。
 実際、これに基づいて協定が署名され、先般国会を可決成立していったわけですけれども、なぜ国会での議決を必要としたかといえば、それは、まず財政法九条一項というのがありまして、そこでは、国の財産は、法律に基づく場合を除くほか、ちょっと飛ばしますけれども、適正な対価なくしてこれを譲渡してはならないという規定がございますので、やはり国会の議決が何らか必要であるということでございます。
 そして、もう一つ言えば、これは日韓の協定でございますので、一九六五年の日韓基本条約、これに基づくいわゆる日韓間の請求権及び経済協力協定、そこで両国、政府間ですね、それから国民間の請求権に関する問題は完全かつ最終的に解決されているということですので、新たに日本政府が一方的に引渡しの義務を負う、そのためにはやはり国会の議決を経る必要があるというこの二点であります。
 ここでお聞きしたいのは、内閣法四条一項で閣議決定というものが定められております。例えば、政令ももちろん閣議決定を経て決められているわけですけれども、当たり前ですけれども、政令あるいは閣議決定というものは、まさに内閣の行政権あるいは執行権とも申しますか、法律の範囲内で法律の執行のためにこれが行われる必要があります。しかしながら、今挙げた昨年八月十日の閣議決定の内容は、言わば財政法九条一項、そして日韓請求権及び経済協力協定をオーバーライドするものであるというふうに言えるかと思うんですけれども、まず外務省に対してその点を確認させていただきます。

○政府参考人(石兼公博君) 昨年八月十日の総理談話についてのお尋ねでございます。
 御指摘の総理談話につきましては、これは朝鮮王朝儀軌等の図書の引渡しを行いたいとの政府としての考えを述べたものでございます。
 他方、先生御指摘のとおり、国の財産を無償で譲渡することに該当するので、そのための協定を国会の承認をいただいた上で韓国との間で締結する必要があって、両国政府間で署名を行った上で、国会で御審議をいただき承認をいただいたと、このような次第でございます。

○桜内文城君 要は、内容的には、その後、協定が国会に提出されてきたということを見ても分かるとおり、財政法九条一項、そして日韓請求権及び経済協力協定をオーバーライドしているということだと思います。
 こういったものが、憲法でいいますと、憲法四十一条、国会は唯一の立法機関であるということですけれども、いずれにしましても、政令あるいは国会提出の条約あるいは法律案、これはもちろん新しい法律案ですので、既存の法律をオーバーライドする内容が含まれていてもこれはもちろん結構なわけですけれども、今回私が取り上げていますこの八月十日の閣議決定というのは、政令と同じく一般に対して、一般人といいますか一般国民に対して発出されておるものでありまして、こういった場合に、この閣議決定の一部内容が、今申しましたとおり憲法や法律をオーバーライドする、このような場合の閣議決定の法的な効力というものについて内閣官房あるいは内閣法制局等でどのようにお考えなのか、お尋ねいたします。

○政府参考人(河内隆君) 閣議決定一般についての御質問にお答えさせていただきます。
 内閣法におきましては、内閣がその職権を行うのは閣議によるものと規定されており、閣議決定は内閣の最高意思決定手続でございます。内閣は、日本国憲法におきまして、法律を誠実に執行し、国務を総理する職責を有するものであるということを前提にしておりますことから、内閣の意思決定でございます閣議決定も、当然憲法や法律の範囲内におけるものでございます。したがいまして、御指摘のような閣議決定が憲法や法律に違反するという問題は生じないものというふうに理解しております。
 以上でございます。

○桜内文城君 生じないものというか、今るる申し上げたように、実際に憲法四十一条やあるいは財政法九条一項あるいは日韓の請求権及び経済協力協定をオーバーライドしているわけですよ。こういった法の支配といいますか、法律に基づく行政というものが余りにも軽んじられているのではないかというふうに言わざるを得ません。
 江田法務大臣にも、これまでのやり取りをお聞きになって、所感をお聞きします。
 今、この民主党政権になりまして内閣法制局が国会の場に出てくることがほとんどなくなりましたので、こういった法律論、特に法律と閣議決定の関係ですとか、こういったものをなかなか国会でお尋ねする機会がありません。閣議の一構成メンバーでもいらっしゃいます、そして法の専門家でもいらっしゃいます大臣にお尋ねいたします。

○国務大臣(江田五月君) 内閣の構成メンバーではございますが、昨年八月はまだメンバーでありませんでした。それから、法律の専門家というほどのことはございませんが、あえて委員の御指摘の法律の仕切りに従ってということで答弁すれば、この事項は法務省の所管外であるということしか言えません。
 ただ、閣議決定というのは、かなり幅広く内閣が行政権を行っていく上での意思決定を方向付けるものでございまして、そういう閣議決定をし、そしてこの図書協定について両院の承認もいただいて、これに従って韓国に朝鮮王朝儀軌を引き渡すということは、私はそれはそれで問題はないと思っております。私が参議院で議長をしておりました当時に、公明党の議員の皆さんだったと思いますが、大変熱心にこのことについての御説明もいただいて、私はなるほどなと納得をしております。

○桜内文城君 私は、今般可決成立した協定自体がいいとか悪いとか言っているわけではありません。その協定が実際に閣議決定をされた上で国会に提出されてきたと、今般の協定ですけれども、これについてはどうこう言うつもりはありませんけれども、その前の、昨年八月十日の閣議決定というものが憲法や法律を乗り越えているということは否めない事実でありますし、そういった法律に基づく行政というものを軽視するような行政がこの民主党政権になりまして多々散見されるということを指摘させていただきます。
 次に、国家賠償法、これは法務省の所管だということでお伺いいたします。
 まず、浜岡原発の停止要請ですけれども、これは行政指導というふうに国会答弁等でも言われております。行政指導というのが現在、行政手続法三十二条におきまして一般原則として規定されておりますけれども、その一般原則の中では、当該行政機関の任務又は所掌事務の範囲を逸脱してはならないですとか、あるいは行政指導の内容があくまでも相手方の任意の協力によってのみ実現される、こういった任意性ですとか、まさに行政機関としての法の執行、法律に基づく行政の所掌事務の範囲を逸脱してはならないということが述べられておるところであります。国家賠償法との関係ですけれども、国家賠償法一条では、もちろん不法行為等と非常に似通った要件が定められているわけでありますけれども、公権力の行使ですとか、あるいは故意又は過失、そして違法性、こういったものが規定されております。
 行政指導の場合、今回の浜岡原発の例でも見られますように、その任意性といったときに、まあ実際に要請しているにすぎませんので決定は先方の方だということかもしれませんけれども、実質的な意味で強制力がなかったのかといえば、今回のような要請の場合、やはり完全に任意とは言えないのではないかという疑いが私は否定できないと考えております。
 そしてもう一つ、法が想定する行政機関が行える所掌の範囲かどうかという点につきましても、原発の停止要請を行うためには、現行法では原子炉等規制法六十四条三項等がありますけれども、この原子炉等規制法の六十四条三項の要件に該当しない、実際に事故が起こっていない場合ですので、と思われるんですけれども、こういった法の想定する範囲を超えた行政指導というものがある場合に、これが国家賠償法の適用となり得るのか否か、これについて、この国家賠償法を所管する法務大臣にお伺いいたします。

○国務大臣(江田五月君) これもなかなかお答えをしにくいものでございまして、浜岡原発の停止の要請は、これは私の理解では原子力発電というものを所管をしている経済産業大臣が要請をされたものだと思います。そうしますと、これは法務大臣の所掌の事務とはかなり違っておりまして、そのことについていろいろ申し上げるわけにはいかない。しかし、一般論として、行政指導に携わっている者が違法な公権力の行使としての行政指導を行った場合に国家賠償法との関係いかんということになれば、これは個別事案ごとの裁判所の判断ということで、そういう場合もあるだろうと思います。
 ところが、ここでまたもう一つ難しい問題が出てまいりまして、法務大臣というのは、国家賠償請求訴訟において国を代表する立場になるので、国を代表して適切な民事訴訟の結論をいただくための訴訟追行行為をしなきゃならぬということですから、今ここでそれ以上踏み込んだ答弁をすることは差し控えておきたいと思います。

○桜内文城君 ありがとうございます。行政指導の名の下に、これが全く国家賠償請求の対象にならないというようなお答えでなかったので安心いたしました。
 実際、今回のこの浜岡原発に関しては、やはり経済的な損失というのが中部電力に生じます。それで、実際そのほかもクエの養殖とかに原発の温水を利用しておったとか、そういった面でいろんな意味での経済的損失が生じるわけで、これを誰がかぶるのかという点でいいますと、実際、経済産業大臣の方から、原発停止に伴う追加的な費用負担について中部電力から具体的要請があれば、金融支援策など最大限検討していきたいと。ただ、これもいいのかどうか、これも行政指導みたいな話だと思うんですけれども、法に規定なくこうやって経済産業大臣が経済的損失の一部を補填するかのごときコメントを既に述べられているということからすると、行政指導といえども、やはり厳密にぎりぎりいきますと国家賠償法の適用対象になる場合も十分あり得るんではないのかなという意見を述べさせていただきます。
 これに関連して、最後の質問ですけれども、福島第一原発事故によります原子力災害につきまして、実際、原子力災害対策特別措置法というものがございます。これに基づいて緊急事態宣言でありますとかその他実際の対策がなされるということで、マニュアルがこの法に基づいて規定されております。原子力災害対策マニュアル、これは、各省庁横断的に相当細かく、現地対策本部にどういったポストの人が行くのか、記者会見の頻度、あるいはどこでやるのか等々、相当細かく決められておりますが、そしてまた、災害対策基本法三十四条に基づいて防災基本計画、この中にやはりSPEEDIの結果の公表ですとか、あるいは文部科学省、今日政務官来ていただいていますので申し上げますが、例えば原子力研究開発機構等の専門家をちゃんと呼んできちんと対策を立てろということでありますが、ほとんどこれは無視されているんですね、このマニュアルというものが、実際の経緯を聞いてみますと。
 こういった事故後の対応について、法に基づくマニュアルに従って行われていない、このような場合、国家賠償法の対象に十分なり得るんじゃないかと考えますけれども、これはいかがでしょうか、法務大臣。
 そして、SPEEDIの公開。それから、原研が地震後十日間にわたって、東海村にあります原子力科学研究所、約千四百人研究者等がいるわけですけれども、十日間にわたって千人以上自宅待機を命ぜられている。本当はまさにこの日のために国家が養ってきたわけですよ、彼らを、専門家として。十日間も休ませる、全くマニュアル無視だと私は考えますけれども。
 国家賠償法については法務大臣、そして文部科学省として、SPEEDIの結果の公表の遅れによる被曝の損害ですとか、原研のそのようなマニュアル違反についての見解をただします。

○大臣政務官(林久美子君) 桜内先生にお答えをさせていただきます。
 ただいまマニュアル違反という御指摘がございましたけれども、少し経緯をお話しさせていただければと思うんですけれども、今回のSPEEDIに関しましては、まずマニュアルに沿ってしっかりとデータを、それに沿ってきちっとセンターなどにマニュアルどおり報告を、試算をして提供するようにということで、マニュアルどおり行動させていただきました。
 あと、原研の話なんですが、日本原子力研究開発機構防災業務計画というものに基づいて事故発生直後から、実はもう当日東京を出発をいたしまして、しっかりと国や地方公共団体の要請に基づいて専門家やモニタリング要員を現地へと派遣をいたしております。ピーク時には一日に百名を超える人員を福島に従事をさせているということも御理解をいただければと思います。
 余り詳しくは申し上げませんけれども、SPEEDIの件、そしてこうした原研の職員の件等についてマニュアル等の趣旨に沿って対応してきたというふうに認識をいたしております。
 今回の事故対応の徹底的な検証が今後行われる中で、文科省や原研の対応の在り方についてもしっかりと考えてまいりたいというふうに思います。

○委員長(浜田昌良君) 江田法務大臣、簡潔な答弁お願いします。

○国務大臣(江田五月君) マニュアル違反は国家賠償に当たるかという、そういう御質問かと思いますが、ちょっとこのどこの部分がどうというのが分かりませんのでお答えしにくいんですけれども、ただ、このマニュアルについては、これは法務省が所管というわけではありませんので差し控えますが、外部交流電源が長時間にわたって全く失われるという、そういうシビアアクシデントは想定しなくていいというようなことになっていたことは、これは私はやっぱりそんなことに従って行動したんじゃ駄目なんだということが今回はっきり示されたのではないかと思っております。

○桜内文城君 終わりますが、何かいろいろと報道等を聞いておりますと、全て原子力災害に関する賠償等を東電におんぶにだっこというような印象がございます。国家賠償法の適用も含め、これから議論をさせていただきたいと思います。
 終わります。