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カッパーフィールド 自由の女神消失
(Vanishing the Statue of Liberty by David Copperfield



 私は子供の頃に、ものすごく不思議で、こいつのマジックはマジでスゲーぜ!と心底思ったことがある。そう、デビッド・カッパーフィールド(David Copperfield)である。

当時の私にとって、自由の女神消失や、万里の長城すり抜けは、もの凄いインパクトであった。日本での放映が84年3月というから、私が小学校3年生の頃と思わうが、今でも、そのときの感動は心に残っている。

さて、この「自由の女神消失」について、ご存知ない方もおられよう。そのため、内容を簡単に説明すると、要するに「自由の女神消失」というのは、マジックの愛称といった類のものではなくて、字義通り、大勢の人間が見守る中、あの本物の自由の女神を消し去るという、ちょっと信じがたいイリュージョンである。本項では、そのイリュージョンの種明かしをする。

…と、ここで本題に入る前に、マジックに対する私の考え方を提示しておく。

注意

 私はマジシャンではない。だから、この真相が正しいという高い精度での保証はできない。また、だからといってマジックのトリックを公開することに問題意識がない、というわけでもない。

ただし、マジックのトリックを知ってがっかりするという心理について思うところがある。

トリックを知ると、なぜ、がっかりするのだろうか。たしかに、そういう演目があることは否定しないし、種明かしがマジシャンにも失礼だという話は充分に承知している。

ただ、そういった話ではなく、マジックを観る成熟したスタンスが欠如した人々が、誤った期待の持ち方をしてしまったことにより、トリックを知って、理不尽にがっかりする、という状況が、日本には少なからずあると思うのだ。それが気に入らない。

もちろん積極的なタネ明かしは論外であるが、タネを知ったときにガッカリするのも、多くの場合において、私の素朴な感情としては、どうにも納得いかないのだ。

とりわけ、目の前で起きる不思議な現象を純粋に楽しむという視点がなく「見破ってやるぞ」という見方しかできない者は、明らかに損をしているし、それこそつまらない。

せめて、トリックを知って「そんなもんか」とガッカリする前に、「そんなもん」で、仕組みが想像できないほど素敵で不思議な現象が成立していたという事実を忘れてはいけないと思うのである。

マジックは、健全な鑑賞の姿勢と、トリックに対する畏敬の念があれば、健全な好奇心を育むものだと私は信じている。

さて、なぜこんな話をしたかというと、「自由の女神消失」のトリックがチンケだからではない。

むしろ、このトリックは「うお、想像スゴ!」という内容である。ただ、ここを読む人に、私が軽々しくトリックを公開する無粋な人間ではなくて、マジックの観客としてどういう立場であるか、そのことを述べておきたかったからである。私は、マジックを観るのが好きだということを主張しておきたい。


自由の女神消失の内容

 簡単に状況を説明しておこう。まず、場所は自由の女神が設置されているリバティ島の東端である。このイリュージョンは、夜間に行われたため、自由の女神は、台座に円形に配置されている照明灯で照らし出されており、別途サーチライトも設置済みである。

現場の観客(特設シートに座っている人々)も、TVカメラも(つまり視聴者)のいずれも、正面には二本の柱があり、柱と柱の間に自由の女神が見えている。

位置関係は、左に特設シートと観客 柱 自由の女神という配置

  左の図は観客席に座ったアングルである。このように、幕をかけるための二本の柱の間に、自由の女神が見えるような配置である。

上空を飛ぶヘリコプターには、レーダーがあり、レーダー・スクーリンには、女神像を示す輝点も表示されている。さらに、観客やTVカメラとは別に、柱の外側から3台のポラロイドカメラで、証拠用の写真撮影も行なうことになる。

では、このイリュージョンが、どういったものであるか、次の動画を前提に、順番を追っておさらいしておこう。

 1983年当時の放送から当該部分(英語版)


Copperfield-Statue Of Liberty Disappears 投稿者 dreammaster01

これは、当時の番組から核心部分の数分を取り出したものである。

内容をおさらいしよう。

  1. 直接この場にいた観客もTVカメラも、上記のように自由の女神が正面に見える位置に、最初から最後まで座っている。
     
  2. この視点のまま、柱の間に幕が張られ、それにより自由の女神が見えなくなる。(二本の柱は、この幕をかけるためである。)
     
  3. 幕によって自由の女神が見えない状態のまま、カッパーフィールドが面白トークを披露。
     
  4. 会場に設置のレーダースクリーン上の女神像を示す輝点を指差しながら、今から消すということを予告すると、レーダーの輝点が消える。
     
  5. そして幕を開けると、さっきまで目の前にあった「自由の女神」が消えている。現地の観客にとっても、ついさっき真正面に自由の女神があった場所に座ったままなのに。
     
  6. ここで、本来あるはずの「自由の女神」だけがない台座、つまり、自由の女神を照らすために円形に配置された照明しかない状態の空の台座の映像が、上空のヘリコプターから撮影したものとしてTVに映る。(現場ではヘリが飛んでいる)
     
  7. さらに観客席側から、サーチライトなどを照射し、自由の女神が、本当にそこには存在しないことをたっぷり確認し、観客へのインタビューなどもする。(聖職者や俳優などもいる)
     
  8. 次に、座席よりも外側に設置してあった3台のポラロイドカメラの連続写真を確認する。すると、最初の数枚は「自由の女神」を背景にした女性が連続で写っているが、ある一枚を境に、「背後の自由の女神」だけがいなくなっている。にもかかわらず、女性は不自然なところなく連続写真に自然に写ったままである。
     
  9. 5〜8によって、自由の女神が消失していることを徹底的に確認したら、また正面の柱の間に幕をかける。
     
  10. ちょっとしたトークをはさみ、幕を開けると、さっきまで何もなかったその空間に、きっちりと「自由の女神」が戻っている!

以上のような内容である

繰り返すが、このイリュージョンの凄いところは、TVで視聴している我々も、実際に現場に居てTVに映っている観客も「同じ光景を観て体験している」という大前提を忠実に守っているという事実に尽きる。このことは強調してもし足りない。


解明編

 さて、この自由の女神消失のトリックについては、ウィリアム・パウンドストーンの『大疑惑』から知ったものである。本項では、このパウンド・ストーンの解明を紹介していく。この著者は、同書の他に『大秘密』『大暴露』という三部作によって、非常に濃い調査をしている人物で、調査能力は、デバンカーとして高いレベルにあり、今回も気合が入っている。

まず、パウンドストーンは実際にこの撮影が行われた現場の検証なども行っている。

現場にいくと「自由の女神消失」が行われた場所(リバティ島の東端)、そして特設シートがあった場所は、すぐに特定ができたとのことである。さらには、実際にそこには、幕用の柱がないのはあたりまえとして、椅子などもない。

冷静に考えれば、あんなところに椅子が並んでいないのは当然であり、柱などと一緒に、カッパーフィールド側が用意したわけである。

そして、驚くばかりであるが、突然言われても信じがたいかもしれないが、この特設シートが、実は特別な台の上に作られていたらしい。

それも、電動でゆっくり回転することが可能な台の上に!
 
  左は、その仕掛けを図解したもの。

つまり、カッパーフィールドは、かなり大掛かりな設備を、この演目のためだけに作ったのだ。

この、ゆっくり回転する特設シートの台が、トリックの最大のキモである。

他にも事前の用意があり、「ヘリコプターが撮影している、女神像がない状態の円形に配置された照明設備のある台座」

を、別の場所に用意したりなど、あらゆる必然性と無駄の排除によって、限界まで不思議を体感させてくれるイリュージョンの真髄を垣間見た気がするほどである。
 
『大疑惑』ウィリアム・パウンドストーン著p166

そういうわけで、改めて「自由の女神消失」というイリュージョンを眺めると、全体の構成が深く考えられていることに驚かされる。

細かいトリックも含め、1〜10の過程におけるイリュジョーンとしてのタネと関連した意味を補記して、再構築してみよう。

  1. 直接この場にいた観客もTVカメラも、上記のように自由の女神が正面に見える位置に、最初から最後まで座っている。

    → 最初から最後まで座っているが、正面は「自由の女神」というより「二本の柱」であり、実は座席そのものが、さらに回転する台の上に設置してあったわけである。
     

  2. この視点のまま、柱の間に幕が張られ、それにより自由の女神が見えなくなる。(二本の柱は、この幕をかけるためである。)
     
  3. 幕によって自由の女神が見えない状態のまま、カッパーフィールドが面白トークを披露。

    → 実は、このトークの間に、最大のトリックが実行されていた。まず、幕によって視界が塞がれるやいなや、ゆっくりと、気がつかれない程度に座席やTVカメラを載せた台全体が視界をずらすべく微妙に回っているのである。

    同時に「自由の女神」の台座に円に配置された照明も消してしまう。この観客が乗っている台の回転に時間がかかるため、時間稼ぎのために、カッパーフィ−ルドのトークが入り、ここでCMも入るのだが、CMの時間も使われているわけでである。
     

  4. 会場に設置のレーダースクリーン上の女神像を示す輝点を指差しながら、今から消すということを予告すると、レーダーの輝点が消える。

    → このレーダー・スクーンのトリックは、ただ演出と、さらなる時間稼ぎのようだ。レーダーの仕組みの裏をかいた壮大な物理マジック、ということではなく、たんにそういう表示をさせただけのようである。演出+時間稼ぎという二つの必然性がある。
     

  5. そして幕を開けると、さっきまで目の前にあった「自由の女神」が消えている。現地の観客にとっても、ついさっき真正面に自由の女神があった場所に座ったままなのに。

    → 既に座席・TVカメラ・二本の柱の全てが、自由の女神ではなく、何もない方角に、こっそりと向かされており、まさに正面にあったはずの「自由の女神」がなくなったように見えるわけである。

    視界のぎりぎり外にある「自由の女神」本体は、台座の照明が消されており、さらには夜であるため、座席の観客には、全く光が漏れてこないようになっている。
     

  6. ここで、本来あるはずの「自由の女神」だけがない台座、つまり、自由の女神を照らすために円形に配置された照明しかない状態の空の台座の映像が、上空のヘリコプターから撮影したものとしてTVに映る。(現場ではヘリが飛んでいる)

→ これがある意味で最大最高の効果を持った仕掛けだと思うが、一方で、一部のプロのマジシャンが不満を持っていた部分でもあるのだが・・・。

 

消す前のヘリからの映像

消えた後のヘリからの映像

 
  これは普通に撮影。  これは別の場所の映像をヘリからの撮影と見せかけている。

ここに映像トリックが使われており、賛否の判れる、というか一線越えたズルさと非難される要素がある。つまり、あの衝撃的な「台座と円形に配置された照明のみの映像」が、実は現場ではないところの映像なのである。

しかしながら、現場にいた観客には「空の台座」は見えていないが、ヘリコプターは見えている。TV視聴者は場面が切り替わり、ヘリからの、あの台座映像を見るという風になる。

したがって、仮に現場にいた観客が小型テレビを持っていたとしても(83年だからないと思うが)、矛盾は感じないし、移す映像をヘリからの映像ということにして別の場所を流しているということは、現場の観客も、目の前のヘリコプターからの映像だと誤認するという仕掛けになっている。私は、このTVと現場の間にまたがっても成立する映像トリックは、素晴らしいと素直に思うし、まったくズルくないと思う。

  1. さらに観客席側から、サーチライトなどを照射し、自由の女神が、本当にそこには存在しないことをたっぷり確認し、観客へのインタビューなどもする。(聖職者や俳優などもいる)

→ このときは、本当に正面をサーチライトで照らしている。もともと自由の女神がある場所を向いていないのだから問題ない。この台座トリックの凄いところの一つだろう。5.6.ときてこの7で、消失はまさにリアルになる。

  1. 次に、座席よりも外側に設置してあった3台のポラロイドカメラの連続写真を確認する。すると、最初の数枚は「自由の女神」を背景にした女性が連続で写っているが、ある一枚を境に、「背後の自由の女神」だけがいなくなっている。にもかかわらず、女性は不自然なところなく連続写真に自然に写ったままである。

    → これは秀逸なアイデアある。普通に女優に十分なフラッシュを浴びせて連続写真を撮れば、自由の女神を照らしていた台座の照明が消された瞬間に、背後の「自由の女神」が写らなくなるのは道理である。これも夜だからこそである。
     

  2. 5〜8によって、自由の女神が消失していることを徹底的に確認したら、また正面の柱の間に幕をかける。

    → ここでは同じ手順で、興奮覚めやらぬ観客を煽りつつ、ゆっくりと特設シートを載せた台そのものが、元の向きに戻っている。
     
  3. ちょっとしたトークをはさみ、幕を開けると、さっきまで何もなかったその空間に、きっちりと「自由の女神」が戻っている!

    → いろいろ時間稼ぎをして、「自由の女神」の台座の照明をきちんと灯し、移動後に幕を開ければ元の自由の女神が!という仕掛けである。

他にも細かい計算が随所にあり、たとえば、柱を通して見える夜空は、スモークがかかっている。これは、スポットライトの光線を見易くするためという理由があるのだろうが、これにより、もし星が見えてしまいそうな天気でも、星が見えなくなるという効果もあるだろう。

ちなみに、パウンドストーンは、この番組の現場スタッフから事情聴取をして真相に迫ったという。現場には、回転台の設置にともなう傷跡が少し残っていたようだ。今は不明。

ともかく、CMから配置まで、全てが必然性に満ちた完璧なイリュージョンであり、費用も尋常ではない。ただ感動する。

 

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