私は子供の頃に、ものすごく不思議で、こいつのマジックはマジでスゲーぜ!と心底思ったことがある。そう、デビッド・カッパーフィールドである。中でも、自由の女神消失や、万里の長城すり抜けは、もの凄いインパクトであった。日本での放映が84年3月というから、小学校3年生の頃と思われるが、今でも、そのときの感動は心に残っている。
「自由の女神消失」をご存知ない方のために簡単に説明すると、要するに「自由の女神消失」というのは、マジックの愛称といった類のものではなくて、字義通り、大勢の人間が見守る中、あの本物の自由の女神を消し去るという、ちょっと信じがたいイリュージョンである。
このイリュージョンの動画がUPされているサイトがあるので、記憶が薄い、あるいはご存知ない方は、ぜひご覧あられい。全部で49分55秒のうち、だいたい40分あたりから視れば「自由の女神消失」のほぼ全てを観ることができる。
さて、本題に入る前に、少しお断りしておきたい。
私はマジシャンではない。(だからこの真相が正しい保証はないが、それはさておき)だからといってマジックのトリックを公開することに問題意識がない、というわけではない。だけど、一般にいうように、マジックはトリックが判ると「な〜んだ」というものばかりだ、という声にも賛同していない。
私は縁あって、これまでにいくつかトリックを知ったネタがあるが、それらは、必ずしもがっかりではなかったし、というか、正直なところ、どれこれも「スゴイ」という驚嘆ばかりであった。
ここで、素人意見ながら、トリックを知ってつまらないと思う心理について2つほど、思い当たることがあり、述べておきたい。
典型的なものとしては、まず、マジックを観る成熟したスタンスがないがゆえに(不思議を純粋に楽しむという視点がなく「見破ってやるぞ」という見方しかできないなど)、妙な期待の仕方をしていたりするせいで、結局、不思議さのタネが期待に見合わない、あるいはそれだけのトリックから、十分な不思議さ発揮できていた、という事実を忘れてしまい「な〜んだ」になってしまうというケース。
もう一つは、実際に演じたとき、その演目がどれほど不思議に見えるかを評価しないまま、トリックの解説本から読んでしまった場合などである。
この二つのケースがあって「トリックを知ると、大抵はガッカリでつまらなくなる」という説が出てくるのではないかな、などと思うのであった。「そんなもんか」というトリックだろうが、「そんなもん」で、その素敵で不思議なマジックが成立しているという事実を忘れてはいけないと思う。※もちろん積極的なタネ明かしは論外であるが、タネを知ったときにガッカリするのも、私の素朴な感情としては、どうにも納得いかないのである。
さて、なぜこんな話をしたかというと、別に自由の女神消失のトリックがチンケだからではない。むしろ、このトリックは、「うお、、想像超えてスゴかった!」という内容である。ただ、ここを読む人に、私が軽々しくトリックを公開する無粋な人間ではなくて、マジックの観客としてどういう立場であるか、そのことを述べておきたかったからである。私は、趣味というほどではないが、マジックを観るのが大好きなのだ。
自由の女神消失 説明
この自由の女神消失のトリックについては、『大秘密』『大暴露』『大疑惑』の三部作で、超常現象ネタではないながら、多数のデバンキングを行ったウィリアム・パウンドストーンの調査から知ったものである。本項では、このパウンド・ストーンの解明を紹介していく。
それと一つ、全てが単なる映像トリックで、TVに映っている観客までもがサクラである、というのは根拠のないガセネタである。この自由の女神消失が凄いのは、TVで視聴している我々も、TVに映っている観客も、実際に同じ光景を観て体験している、という事実につきる。このことは強調してもしたりないと思う。
簡単に状況説明をしよう。まず、場所は自由の女神が設置されているリバティ島の東端である。夜間に行われたため、自由の女神は、台座に円形に配置されている照明灯で照らし出されており、別途サーチライトも設置済みである。 現場の観客(特設シートに座っている)も、TVカメラも―つまり視聴者―のいずれも、自由の女神が、正面の幕をかけるための柱の間にみえるよう配置されている。上空を飛ぶヘリコプターのレーダー・スクーリンには女神像を示す輝点もしっかり表示されている。
さらに、観客やTVカメラとは別に、唯一例外的に柱の外側から3台のポラロイドカメラで、女神像を背景にした女性を連続撮影している。
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※これが二本の柱 観客は基本的にこの向きでの視点になる。
また、視聴者は、これに加えヘリコプターからの撮影も途中で観ることになる。 |
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では、このイリュージョンが、どういったものであるか、順番を追っておさらいしておこう。
直接この場にいた観客もTVカメラも、上記のように自由の女神が正面に見える位置に、最初から最後まで座っている。
この視点のまま、柱の間に幕が張られ、それにより自由の女神が見えなくなる。(二本の柱は、この幕をかけるためである。)
幕によって自由の女神が見えない状態のまま、カッパーフィールドがトーク。(CMなども入る)
会場に設置のレーダー・スクリーン上、女神像を示す輝点を指差しながら、今から消すということを示し、スクリーン上から輝点が消える。
そして幕を開けると、さっきまで目の前にあった「自由の女神」が消えている。現地の観客にとっても、ついさっき真正面に自由の女神があった場所に座ったままなのに。
ここで、本来あるはずの「自由の女神」だけがない台座、つまり、自由の女神を照らすために円形に配置された照明しかない状態の空の台座の映像が、上空のヘリコプターから撮影したものとしてTVに映る。(現場ではヘリが飛んでいる。)
さらに観客席側から、サーチライトなどを照射し、自由の女神が、本当にそこには存在しないことをたっぷり確認し、観客へのインタビューなどもする。(聖職者や俳優などもいる。)
次に、座席よりも外側に設置してあった3台のポラロイドカメラの連続写真を確認する。すると、最初の数枚は「自由の女神」を背景にした女性が連続で写っているが、ある一枚を境に、「背後の自由の女神」だけがいなくなっている。にもかかわらず、女性は不自然なところなく連続写真に自然に写ったままである。
5〜8によって、自由の女神が消失していることを徹底的に確認したら、また正面の柱の間に幕をかける。(ここでもCMが入る)
ちょっとしたトークをはさみ、幕を開けると、さっきまで何もなかったその空間に、きっちりと「自由の女神」が戻っている!
その真相
まず、このイリュージョンのトリックを見つけたパウンドストーンは凄い。といっても、実は番組製作に関わった情報提供者などもいたとのことではあって、ちょっとズルイ。
いずれにせよ、全てがサクラをつかったような完全なデッチ上げでないならば、いよいよ謎が深まるといえよう。
まず、パウンドストーンは実際にこの撮影が行われた現場の検証なども行っている。そして「自由の女神消失」が行われた現場(リバティ島の東端)や、特設シートがあった場所は、すぐに特定ができたとのことである。さらには、実際にそこには、幕用の柱がないのはあたりまえとして、椅子などもないのである。冷静に考えれば、あんなところに椅子が並んでいないのは当然であり、柱などと一緒に、カッパーフィールド側が用意したわけである。
で、なんという大胆な、、と驚くばかりであるが、突然言われても信じがたいかもしれないが、この特設シートが、実は特別な台の上に作られていたのである。それも電動でゆっくり回転することが可能な台の上に!かなり大掛かりな設備を、この演目のためだけに作ったのである。
この、ゆっくり回転する特設シートの台が、トリックの最大のキモであるが、他にも「ヘリコプターが撮影している、女神像がない状態の円形に配置された照明設備がある台座」を、別の場所に用意したり、他にも工夫が凝らされていて、全体を通してこそのイリュージョンなのだ。
そういうわけで、改めて「自由の女神消失」というイリュージョンを眺めると、全体の構成が深く考えられていることに驚かされる。細かいトリックも含め、1〜10の過程における真相を付記して、再構築してみよう。
直接この場にいた観客もTVカメラも、上記のように自由の女神が正面に見える位置に、最初から最後まで座っている。
解説:最初から最後まで座っているが、正面は「自由の女神」というより「二本の柱」であり、実は座席そのものが、さらに回転する台の上に設置してあったわけである。
この視点のまま、柱の間に幕が張られ、それにより自由の女神が見えなくなる。(二本の柱は、この幕をかけるためである。)
解説:二本の柱は、幕用でもあり、視界を狭めるためでもあった。
幕によって自由の女神が見えない状態のまま、カッパーフィールドがトーク。(CMなども入る)
解説:ここで最大のトリックが実行されているわけである。
まず、幕によって視界が塞がれるやいなや、ゆっくりと、気がつかれない程度に座席やTVカメラを載せた台全体が視界をずらすべく微妙に回っているのである。
同時に「自由の女神」の台座に円に配置された照明も消す。
この観客が乗っている台の回転に時間がかかるため、時間稼ぎのために、カッパーフィ−ルドのトークが入り、CMの時間すらも使われているのである。
次に、会場設置のレーダー・スクリーン上、自由の女神を示す輝点を指差しながら、今から消すということを示し、スクリーン上から輝点が消える。
解説:このレーダー・スクーンのトリックは、演出と、さらなる時間稼ぎのようだ。レーダーの仕組みの裏をかいた壮大な物理マジック、ということでもなく、たんにそういう表示をさせただけ。
そして幕を開けると、さっきまで目の前にあった「自由の女神」が消えている。現地の観客にとっても、ついさっき真正面に自由の女神があった場所に座ったままなのに。
解説:既に座席・TVカメラ・二本の柱の全てが、自由の女神ではなく、何もない方角に、こっそりと向かされており、まさに正面にあったはずの「自由の女神」がなくなったように見えるわけである。視界のぎりぎり外にある「自由の女神」も、ご丁寧に台座の照明が消されており、さらには夜であるため、座席の観客には、はじっこすら見えないようになっていた。
ここで、本来あるはずの「自由の女神」だけがない台座、つまり、自由の女神を照らすために円形に配置された照明しかない状態の空の台座の映像が、上空のヘリコプターから撮影したものとしてTVに映る。(現場ではヘリが飛んでいる。)
解説:ここに映像トリックが使われており、賛否の判れる、というか一線越えたズルさと非難される要素がある。つまり、あの衝撃的な「台座と円形に配置された照明のみの映像」が、実は現場ではないところの映像なのである。
現場にいた観客には「空の台座」は見えていないが、ヘリコプターは見えている。TV視聴者は場面が切り替わり、ヘリからの、あの台座映像を見るという風になる。しかも、仮に現場にいた観客が小型テレビを持っていたとしても(83年だからないと思うが)、目前のヘリコプターからの映像だと誤認するという仕掛けである。私は、このTVと現場の間にまたがっても成立する映像トリックは、素晴らしいと素直に思う。
上空だけではなく、現地の観客席側からサーチライトなどを照射し、自由の女神が、本当にそこには存在しないことをたっぷり確認し、観客へのインタビューなどもする。(聖職者や俳優などもいる。)
解説:これは、本当にサーチライトで照らしている。もともと自由の女神がある場所を向いていないのだから問題ない。この台座トリックの凄いところの一つだろう。5.6.ときてこの7で、消失はまさにリアルになる。
さらに座席よりも外側に設置してあった3台のポラロイドカメラの連続写真を確認する。すると、最初の数枚は「自由の女神」を背景にした女性が連続で写っているが、ある一枚を境に、「背後の自由の女神」だけがいなくなっている。にもかかわらず、女性は不自然なところなく連続写真に自然に写ったままである。
解説:これは秀逸なアイデアある。普通に女優に十分なフラッシュを浴びせて連続写真を撮れば、自由の女神を照らしていた台座の照明が消された瞬間に、背後の「自由の女神」が写らなくなるのは道理である。これも夜だからこそである。
5〜8によって、自由の女神が消失していることを徹底的に確認したら、また正面の柱の間に幕をかける。(ここでもCMが入る)
解説:ここでは同じ手順で、興奮覚めやらぬ観客を煽りつつ、ゆっくりと特設シートを載せた台そのものが、元の向きに戻っているわけである。
ちょっとしたトークをはさみ、幕を開けると、さっきまで何もなかったその空間に、きっちりと「自由の女神」が戻っている!
解説:「自由の女神」の台座の照明をきちんと灯し、幕を開ければ元の自由の女神が!という仕掛けである。
基本トリックを、図解で説明するとこういうことである。
※『大疑惑』ウィリアム・パウンドストーン著p166
このように、観客に気がつかれないように、土台をゆっくり回転させ、左の図のような状態にすることで、あたかも「自由の女神」が消えたように錯覚させるという荒業である。
さらに、自由の女神を照らす台座の照明と同じような台座だけの照明設備を用意し、さも自由の女神が本当に消えたかのようなヘリからの映像を挟むのも、凄く強力だと思う。
レーダーも連続写真も夜であることもサーチライトもヘリコプターも、さらにはトークやCMの時間ですら、全てがこのイリュージョンを成立させる要素なのである。
この回転する台座が、なんといっても要であり、これが主要なトリックであるが、解説を見ていただくとわかると思うが、この一連のイリュージョンを可能足らしめるためには、かなりの工夫がなされているのだった。
それにしても、金のかけかたが尋常ではない。
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