TOP > 懐疑論者の雑談 >  バグダッドの電池 Baghdad_Battery



バグダッドの電池
Baghdad_Battery
 


 ※バグダッドの電池についてご存知ない方は、調べてみてください。

【超古代文明論者の間違い】
 まず、正統派考古学会が、バグダッド電池を無視している、みたいな主張は大間違いであり、この物件が無視されているという事実はない。ついでに、学会でほぼ否定されているのは「電気メッキのための電池使用説」であって、電池説ではないことにも注意しよう。単に電池だろうが、そうでなかろうが、エイリアンさんの出番がないだけのことである。

 この物件について考古学者の見解がわかるのが、BBCの科学関連のところ、2003年の記事である。本家のwikiでも新しい情報がでている。※私は他にもあちこちサイトを巡ってきた。文献としては2005年にめでたく邦訳された『古代の発明』ニック・ソープ、ピーター・ジェームズもちょっと参照した。

【背景】
  この物件は、ドイツの考古学者ウィルヘルム・ケーニッヒが1938年に公表したものである。
 このとき同時に、電池&金メッキ説が提案されている。※通説通り。

【年代】

 当初、紀元前2世紀頃、パルティア人の遺物とされていたが、恐らくサザン朝5〜6世紀頃の品である。

 ・BBCの記事から関連する記述
 「Scientific awareness」の後半、大英博物館の古代近東の部門からシンプソン博士が、通常は紀元前二世紀とされるが根拠が怪しい、ということを述べて「The pot itself is Sassanian.」 と、ポットそのものはサザン朝のもの、と述べている。※この5世紀頃の遺品という説は、2006年現在は結構強い説のようだ

 ・年代に関する議論の詳しい経緯

 発見者のケーニッヒ自身は、実は発掘の記録を公表してもいなければ、残してもいない。
「ホイヤットラブヤ遺跡(パルティア人の遺跡)で見つけた」として、イラク博物館に持ち込まれた遺物を、ケーニッヒが見つけて発表した、と考えられている。
 そして1938年の状況が(戦争直前で、2年後にはケーニッヒが病気でドイツに帰国)、学会でメッキ説と年代についての主張を吟味するだけの余裕がなかったために、年代については厳しい審査を受けていないまま、とりあえず通説になっていった、という背景がある。初期の出土状況については、もはや確認する術がなく、ケーニッヒも別に5世紀だとしても異論はなかった程度だと思われる。
 ケーニッヒの報告(そもそも出土状況不明なので)抜きで、土器スタイルなどから評価すると、サザン朝時代の物である、と鑑定されるため、ひとまずホイヤットラブヤ遺跡出土というケーニッヒの証言が伝聞だった可能性は高い。※ちなみに、土器の科学的年代測定が2006年現在でも出来ていないらしい。
 
 これは、私の素人考古学ではなく、少なくとも2006年現在では、紀元5〜6世紀頃の作製とみなすのが学術的に「ほぼ」正しい判断とされているようである。

【個数】
 この物件と同じものが、10〜20個発掘されている、と紹介される場合があるが、実はちょっと違うようである。元をたどると38年のケーニッヒが公表した論文にそう出ているらしいが、現在、確認されているものは、イラク博物館収蔵のものである。ケーニッヒが紹介したもの以外では、クテシフォン付近でもう一つだけ同型のポットが出土しているようだ。こちらの物件は、護符など当時の魔術関連の品と一緒に出ているので、錬金術師が使用していた可能性もあり、このことは一応、メッキ説とは矛盾しない状況ではあった。
 ※個数については、ケーニッヒの報告通りで、単にイラク博物館の倉庫で今も埃をかぶっているだけの可能性がある、との見解がある。

【物件の姿】
 
ケーニッヒが「電気メッキ説」を公表した論文によると、13〜15cmのポット部分、10cmほどの銅製のシリンダー、そして鉄棒が瓶の口にアスファルトで固定された状態で発見されている。底の部分には、酢などに長時間浸されていたかのような腐食の跡が残っている。 

【再現実験の話】
 
メッキに必要な強さの電力を得る再現実験は、他のグループによる追試がうまくいかなかったりしたこともあり、メッキ説は、かなり厳しい扱いを受けている。また再現実験では、アスファルトの蓋を使っていないことも指摘されている。ただし、現存している現物が2個しかなく、アスファルトをそのまま使用していたという仮定の元に、電池としての機能まで否定してしまうのは不備がある。

 再現実験についての所見を引用しておく。

  Testing this idea in the late seventies, Dr Arne Eggebrecht, then director of Roemer and Pelizaeus Museum in Hildesheim, connected many replica Baghdad batteries together using grape juice as an electrolyte, and claimed to have deposited a thin layer of silver on to another surface, just one ten thousandth of a millimetre thick.

 Other researchers though, have disputed these results and have been unable to replicate them.

 "There does not exist any written documentation of the experiments which took place here in 1978," says Dr Bettina Schmitz, currently a researcher based at the same Roemer and Pelizaeus Museum.

 "The experiments weren't even documented by photos, which really is a pity," she says. "I have searched through the archives of this museum and I talked to everyone involved in 1978 with no results."

 

つまり、78年のグレープジュースを使用した再現実験は、追試で失敗したうえ、あまりきちんと記録も残っていないことが指摘されている。※2003年の記事

 さて、追試が行われているということは、複数の実験がなされていることを意味する。そしてそこから判ったこととしては、まずメッキ説がかなり不利だという事実である。ケーニッヒ博士が記録した通りの状態、つまりアスファルトで固定されている状態だと、電流は短時間発生しても、すぐに途絶えてしまうことが明らかになった。次に、アスファルトの封印を使用せず、銅のシリンダーと鉄棒の配置を維持して、実用に足るほどの電流を発生させるためには、複数の同型品を直列する必要があることも判った。この場合、0.8〜2Vが得られることが判明している。

 また、デバンキングで有名なディスカバリーチャンネルの「MythBusters」が第29回(2005年)にて再現実験をしており、ここでまた面白い見解が得られた。
 この再現実験はかなりよくできていたようである。電解液にはレモンジュースを使い、10個の複製品を使用。この場合は、なんと最大で4V得られ、電気メッキとしても実際に再現実験に成功している。ただ、後述するように電気メッキ説は弱い。

【用途はさておき電池か否か、現在の解釈】
 電池問題については「少なくとも電池であったという点は正しそうだ」という立場と、「他の関連する品が出るまで保留」という立場が主流のようである。「非電池説」も残っているがあまり目立っていない。主に実験考古学の弱点を指摘している文脈で語られているようだ。

電池説についての考古学者の認識について、たとえばBBCの記事から次の部分を引用しよう。

 「Though most archaeologists agree the devices were batteries, there is much conjecture as to how they could have been discovered, and what they were used for.」
  
大部分の考古学者が電池だったことは同意しているけど、
 どうやって発明したのか、どう使っていたのかは、いろいろな推測がある。」

 と、発言している。(ただし、この記事が保護目的のものであり、電池説をことさら強くアピールする政治的な理由があったことは否めない。しかし、それでもデタラメな見解ではなかろう。)

【非電池説】
 これも、もっともらしい説が一つと、非電池説の根拠が出されている。
 本家wikiのBaghdad_Battery より

 非電池説の根拠

 ・まず、ケーブル類などが一切出土していないこと。これは本当に重要である。(ただ発掘事態があまり進んでいない。)

 ・電気を使った遺物について何もヒントがない。(特に伝来のメッキ法が解明されている。エジプトのアーク電灯を示す石のレリーフについては、明らかに必要な電力は得られそうにないし、無関係と思われる。)

 ・電池だとすると、ケーニヒ博士の報告通りなら、アスファルトが非常に不便。

 非電池説の仮説 [羊皮紙やパピルスなどの収容物説]

 特にポットの底にある腐食の痕跡(「液体が入っていた痕」というのは不正確)が、羊皮紙などに由来する可能性があるという説で、魔術的小道具・文書の収納みたいなものだった説といえる。
 もし羊皮紙を入れていて、それが腐ったのであれば、底に弱酸性の有機物の痕跡を残すであろうことから、まさに例の壷と同じ状態になる。この仮説としての予言能力はなかなかエレガントに思える。
 ※ちなみに非電池説で、底にある腐食を説明できる具体的な仮説は他にない。
 弱点としては、アスファルトによる不都合は回避できても、逆に鉄棒が邪魔じゃないのか?という素朴な部分になる。確かに邪魔だ。

【電池説】
 
38年のケーニッヒ説にしても、68年に現地を訪問したロンドンの科学博物館の物理学者ウォルター・ウィントンが確認したときにしても「どうみても電池なんだよな」という報告をしていることから判るように、物理的には「電池」の特徴をよく備えていることがそもそも発端である。
 十分な電力を得るためにいくつか連結する必要があるため、ケーブル類が出土していないことが最も痛いといえるだろう。この状況は、それなりに実用に足る十分な電力を得ていたことを前提とする仮説全てにとって不利な状況である。さらに、アスファルトの蓋も電池としては不便極まりない。ただし、この物件が2個しかないので、どういう使い方をしていたか、正しい状態がわからないため、アスファルトを理由に電池説を否定する論調はやりすぎであろう。逆にケーブルが出てくると、一気に状況が変化するので、これからの発掘が本当に興味深い。
 ちなみに『古代の発明』では、メッキ説を推薦しているが、考古学的にはメッキ説は否定的である。

 実用的電池説は、この関連するケーブル類が存在しないことこそ最大のネックといえるだろう。

 次に、その用途についての諸説を紹介しよう。

【使用方法の諸説】
[電池ではあったが、実用には至らなかった説]
 →これも人気のようだ。さまざまな発明の過程に存在する似たガラクタはたくさんあるだろうし、出土している個数が少ないことも説明できる。

[電気メッキ説]
 →厳しい
 【重要】
  
皆さん疑問に思ったことがあると思うが、私はついに調べた。
 現存するメッキ製品は、どうやってメッキされていたか?という肝心な問題。
 結論としては、電気メッキではなく水銀メッキによるものばかりなのだ。そして近代まで極秘に伝わっていたメッキ法で確認がとれたものも、水銀メッキなどであり、少なくとも電気メッキはないのである。考古学的に、メッキ説が却下される最大の理由は、このことであり、電池説が却下されたから、ではないことに注意しよう。
 ※ただしこのことは、当時の技術者がスキルを極力秘密にしてきたという事実から、電気メッキを使った術者が存在していた可能性を完全に除外するものではない。後に電気メッキを施された遺物が出れば決定的であり、発掘が進んでも、電池の個数が少ないままでも、電気メッキ説と矛盾することにはならない。もちろん肯定する理由にもならない。

[宗教的な偶像に連動させて、さわった人がビリっとくるような石像とか、そういうのを使っていた説]
 仮説のうち、実際に電池として使っていた場合(非実用説以外で)、一番もっともらしいとされる説。この説も、やはりそういった物件や、そういった宗教的物件に関する記述された書板の出土次第である。証拠物件の不足は全てを仮説にするのである。
 ※私見であるが、神殿の自動ドア、聖水自販機、原始的な蒸気機関など、高い技術は、宗教の権威付けの小道具に使われている例が各地の古代文明でいろいろある。古代ギリシャ、エジプトが有名である。その意味で、昨今の考古学的発見から考えると、この説は利に適う説でもあると思う。
 
[電気的針治療みたいな利用]
 コロラド大学のポール・カイザー博士の説で、一番新しい説のために、まだ詳細がわからなかったが、現時点では不人気なようで、あまり調べなかった。

【今後の展望と私の見解】
 もし電池であった場合、電気の理論抜きで発明されたであろう当物件の用途としては、微弱な電力での使用が妥当に思える。微弱な電力でも使用できる宗教的小道具説が、いまのところもっともらしいと思う。
 いずれにせよ、電池にしてもそうでなくても、今後、判明していく可能性は十分にあり、いかなる結論であれ、決着する可能性は、かなり期待できる。というのも、イラクにはまだまだ未発掘な遺丘が何百とあるうえ、未解読の書板が何千も残っているのだから!
『古代の発明』より
 「電気に関する古代人の知識の程度を少なく見積もっても、さらに驚くことがありそうだ、と言ってよい」というのは、ちょっと大げさでも、確かにこれから真相がはっきりしていく可能性が高いという意味で、確かに驚きは残されていると思う。

 追加
 Skeptic's wikiに、当物件の解説がある。
 こちらではいかなるものであっても電池ではないという興味深い結論が提示されている。 


    TOP > 懐疑論者の雑談 >  バグダッドの電池 Baghdad_Battery  

Copyright (C) wakashimu.All Rights Reserved.